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首の話

 首が苦手だ。解雇ではなく、肉体の方。
 きっかけはわからない。ずっと昔から首に触れられるのが苦手だった。もぞもぞ? ぞわぞわ? とにかく居心地の悪さのような感覚がして気が気でない。
 健康診断の首の触診なんて石のように固まってしまう。先生、力の抜き方がわかりません。
 私を猫のように扱う友人から、顎の下から首にかけて撫でられたこともあった。あれは地獄だった。風の噂で結婚したと聞いて少し安心した。
 首が詰まる服装もあまり好きではない。制服のブラウスは第一ボタンまで留めると落ち着かないし、マフラーやネックレスは大丈夫だけれど、うっかり首が締まる妄想をしては自己嫌悪してしまう。
 人間の頸部が弱点だとしてもこんなに過敏になってしまうのだから、きっと前世で首を絞められたに違いない。

 GWに実家に帰省した時、首に触れられるのが苦手だと母親に打ち明けた。ひた隠しにしていたのではなく、単に話す機会がなかったのだ。
 母親は特に驚いた様子もなかった。
「だって赤ちゃんの頃からそうだったよ」
 初耳だ。寒そうだからと服のボタンを上まで閉めたら「うぅー!」と呻いて嫌がっていたので、そんなに苦しかったの……?と思ったらしい。
「それは遺伝だよ」と、隣で聞いていた父親が言った。
 父親も首に触れられるのが苦手らしい。これもまた初耳だ。ちなみに父親の前世は「首を切られた義賊の一族だった」らしい。
 そういえば年の近い弟も、ちょっと首に触れただけで脱兎のごとく逃げていた。
 前世か遺伝かどうであれ身近に理解者がいてよかった。そしてこの広いネットの海のどこかに同志がいることを期待している。

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