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小説

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#晩酌

掌編小説「引っ越し蕎麦はいらない」

 わたし、魚沼千夜は三人姉弟の真ん中。おうし座。出身は新潟。好きなものは美味しい食事とお酒。  就職をきっかけに上京して数年。たまに友達や先輩とお茶をしたり、甥っ子たちの子守りをする。仕事もやりがいを感じ始めて、それなりに充実した独身生活を送っていた。  このままでもいいと思っていたけれど、三十歳になった今年、守屋宗一郎さんと入籍した。  同い年の宗一郎さんとの出会いは、結婚相談所だった。  お姉ちゃんは結婚して男の子が二人いて、弟は彼女と同棲中。わたしは上京してから地元の彼

掌編小説「千夜の晩酌」

《不用品です。ご自由にどうぞ》  暖簾を下ろした居酒屋の軒先に、そのような書き置きと木箱があった。  立ち止まった男は、休日の買い出しの帰りだった。  二つに仕切られた木箱の中には徳利と猪口が入っていた。猪口の数は徳利よりも多く、底に蛇の目が描かれた白磁器から、繊細な模様の刻まれた切子まで、色や形状も様々だ。  男は深みのある緑色の猪口を選んでから、折角ならと同じ容姿の徳利を持ち帰ることにした。陶芸の類いはさっぱり分からないが、どこか親しみを感じる陶器の風合いが、死んだ妻に似