見出し画像

モーニングコール

歌集『起こさないでください』の原稿がわたしの手から離れ、発刊を待つあいだの約半年間と、発刊後に作った短歌(贈歌や配本短歌を除く)を「モーニングコール」という言葉でまとめて、ここに載せます。

短歌をはじめたころからずっと、短歌を「作る」と、頑なに言っている/書いている。短歌を「詠む」というのが正しい、正しいってなんだ、正しいんだろうけど、わたしは短歌を「作って」いる。それ以上のニュアンスは、まだ人にうまく伝えられる気がしない。作ることしかできない。

数年前、「なにかに対して『どうでもいい』という言葉を使う人は、ほんとうの意味でその対象をどうでもよく思っていない」という言葉を、たしかTwitterで見かけてから、「どうでもいい」という言葉に慎重になった。たしかに、と思ったし、それでも、と思うときもある。

性別、どうでもいい。

悪意、どうでもいい。

年齢、どうでもいい。

背景、どうでもいい。

界隈、どうでもいい。

職業の貴賤、どうでもいい。

短歌の技術的技巧的な良し悪し、どうでもいい。

たしかにそれらはどうでもよくない。でもどうでもいい。どうでもいいと思いたい、し、事実どうでもいい。だから、どうでもよくない。

10代の中頃から、ずっと小説を書いてきた。小説のことを考えていたら映画の脚本で賞をいただいたり、パーティみたいな音楽グループに加入することになったり、歌集を出版することになったりした。小説のことを考えれば考えるほど関係のない事柄で前進する。だから関係のない事柄で前進したと感じたとき、それはわたしが小説についてちゃんと、ちゃんとってなんだ、ちゃんと考えていた証拠なんだと思うことにしている。

もう消してしまったnoteの記事に、こう書いたことがあった。

わたしはこの先、歌人、という肩書きを名乗るつもりはありませんし、これから書いていくのであろう小説が、なにかの間違いで多くの人に読まれるような立場になっても、小説家、と名乗るつもりはありません。おかしなくらいルーティーンだらけの日々の、日常の、なんてことのない営みとして、わたしはこれからも、誰に読まれようが、読まれなかろうが、死ぬまでなにかを作っていくのだと思います。その一点だけ、自分自身のことを、わたしは信用しています。

どうでもいい、と思って消した。でもどうでもよくないから、また書いた。



 京都

ガス代を周回遅れで払うことディレイと呼んで俺バンドマン

爪切りに爪が詰まってすこしづつ溢れていくよう渋谷区の夜

伝えたいことがある気がしているがそれは死ぬまで気のせいでしょう

お節介し続けたくてクリームソーダソーダクリームになるまで置いとく

ああそんなグループあるんだ 追い越した長いトラック見つめ続ける

知らないのらないになって旅立っていろんな否定を経験したい

2リッター「ETCカードが、」ボトルで今日は買う「挿入されていません。」炭酸水を

イートインと一緒だ脂ぎったもの食べればあとはここを出るだけ

あたらしいご近所さんがご近所でシャンプーしているにおいごと住む

ニベア缶湯冷めしながら塗りながら 大切にするほど減ってゆく

探したいものから探す 触れたそばから消えている春の霙に

うまい虹 うまくない?虹 見てほしい気持ちを渡すm&m

身辺の出来事すべてがバンドなら(ex.)だらけになるプロフィール

家族にも恋人にもならないままで同居人たちに近寄っていく

おのれから出ていくことばを既知として短冊に吊るしたりはしない

(たいせつなともだち全員しあわせになってくれたのむ)マテ貝を買う

貧しいという字は貝を分けあうと覚えたけれど素敵やんそれ

遠縁の叔父叔母のように散文と韻文がいていっつも味方

 春の座礁

燃焼はアスファルト色 寝煙草は春めくまでのダウンロードバー

ヘラジカの角が腐葉土に落ちる音を同居人と話し合って決める

人生が動いたときの今生の晴れた沼を這う獣のような

暗がりでストレッチする 恋愛に終止符を打つ 徒労だが打つ

みずからの手でみずからに触れる日の末端神経座礁状態

 ワレワレ

国境を陸路で越えることのない我々の観るロードムービー

ワレワレハニホンノケンポウ9ジョウヲダンコシジスルウチュウジンダヨ

こけしには実感がある サーカスに実感はない 個性にもない

米を炊くと白米になる 日本人渡米させるとアジア人になる

われわれをゆっくり屠る器具として花瓶は知られ植物界で

おしなべて2.0になってゆく お金も性も戦争/神も

バーバパパ 半濁点と濁点のおもろさ残れ日本語消えても

 立つ人/眠る距離

なぜ好きかわかりたくないくらい好き円周率の果てに立つ人

ダンボールだらけで落ち着く人の部屋で羽蟻たちが交尾していた

チャリパンクさせられてから日々そうでない状態祈る 祈りが増える

なにかしらあったのだろう集めてた紙袋処分する同居人

お猪口的同心円の意味くらいささやかな距離にて立ち尽くす

すずしくて眼を閉じていた あかるくて服を羽織った きみは眠った

煙草には眼差しがある煙にも火にもわたしの仕草を見せる

愛だけは未来のためだ 遠影の寝床を作る 愛だけのため

 都心の暮らし

行きたいは生きたいとして口を出て働きながら観るフジロック

最寄駅おりるひとびと海原に背中向けてもいずれ着く海

「スピードの地方訛りがスペード」説まにうけながら都心で暮らす

琴線と導火線とを選り分けて春の終わりの古着屋を行く

同居とはたんぽぽの綿いつの日か飛ぶための風がお互いに吹く

残忍なヒト科ですから焼いた鶏の心臓だけを摘まみ上げる箸

どうぶつの白眼の部分剥き出しになるとこわいね ヒトみたいだね

 大丈夫

OKのOくらいパスタを掴む 自分を救い出すのは自分

ライターで火を当てるロウソクたばこ線香みんな塔祈りのための

スパイシーチキンとファミチキむさぼって梅雨ってどう乗り越えていたっけ

友達のライブ活動誇らしく見守っている見送るように

脇道を楽しんでいて脇道をゆく道中が本道になる

新品の化粧品だけ増えていき増えていくそれを使わない日々

約束はちょっと疑うくらいがいい パスタの茹で時間表記くらいは

友達以上恋人以上自分以上命以上に好きな人、以上。

辞書並みに分厚い本はきっと辞書 老いていける人はきっと賢い

あたらしい時間を知りたいさみしくてさみしくてつまらないのがくやしい

花をもらう 紫色の花をもらう 薔薇に見えたけど桔梗でした

どうしても無理、話しかけてしまう。茎が息している花を見ると

 不可抗力の不可避

スイッチやレバー 1+1よりも1×1だったんだな昭和

万物はヘアドネーション飲みさしの水がそのまま汚水浄水用廃水に

突っ伏して寝落ちしている格好のぬいぐるみの横でおんなじになる

器ではなく箱 水分というより顆粒 たましいっていうか希ガス

畳みます洗って干してくれたので 食べます黙って見てくれたので

 生活圏

ピッとした眼で肌を見て丁寧な左官の仕草で毛を剃っていく

生活圏突入します5秒後のシャワーに備えて服を脱ぎます

マニキュアの瓶たち日陰にたむろしてわたしを横目でちらちら見てる

猫トカゲ蝙蝠ヘビ犬モモンガと一緒に老いる理想の余生

公共の施設や乗り物使いたくない祝祭の気分以外で

ちょっとずつ常軌を逸してみずからを許容していく肉野菜炒め

なんだって日々のタスクに取り入れて今日はカラスをやや追いかける

見てません聞いていません言いませんすみません死にません泣きます

いつの日か誰かにこれをわたすのかわたしはもう使わんコンドーム

一度だけ泊まった友が置いてった歯ブラシがずっと乾燥してる

 あなたの言語

非言語で伝えたくって七五調タップダンスとして伝授する

この国はこの国でしか通じない言語の歌を国歌にしてる

殺処分予定のカメラにできたての景色を食わせる ほら、帰ろうよ

「ミントパイ食べたい」「ミントパイ?」「ミントパイ」「なにそれ知らない」「わたしも」「なにそれ」

知らんからのんきに思うわたくしに生理があったら重いか、軽いか

知らんからのんきに思うこの国の戦争責任重いか、軽いか

次に会うときはこれらの韻律もあなたの言語でステップを踏む

 ニホンとKYOTOと太陽フレア

ハンガーにかけっぱなしでいい服とそうでない服について争う

「ドラえもん」「のび太の」「夫婦別姓と同性婚賛成への閣議」

買ったことない果物を買ってみて食べたら安倍晋三っぽい味

それぞれの国のミームに則ってからだを肥やす 味噌汁に海苔

27歳は大人のはじまりの終わりのはじまりラザニアを食う

カナートがカナートだったものになる前に立ち寄る財布持たずに

街並みは罠それは雨そして雨だったもの 京都に帰る

もわもわの味噌汁 おはよう 太平洋プレートの上の上のなめこ

カーテンが浸透率をかえてゆく太陽フレアの穂先の光

 増税の朝

各国のポストカードに切手だけ貼って迎えた増税前夜

最寄りではないけど近いコンビニのバベルの塔として在るジャンプ

アンドランペプチドペプリ昨晩の君の寝言の付箋を作る

雷を合図に走る音なのか光なのかを考えてから

味噌汁にキムチを入れるどちらかの姓が変わればそういうことだね

語らいは断絶を生む断絶を花束とする解釈を生む

膨大な数こそ救い1兆のラクトバチルス運ばれる朝

朝くらい歌うな殺すぞ起きちゃったやろって言う同居人と踊る

遠縁の叔父の団地のF棟のタープの隅で明くピラカンサ

矛だけど盾でもあって生活は適宜貫かれる盾の影

 ハッピー闊歩

永遠はわりと近くにあるたとえ通じなくても話すミモザに

トラックが人より偉い道が好き 赤いヒールの意味消えうせて

見つめ合い長めの握手を交わすとき黒子でありたい自身のすべて

東京でわたしは満たされだしました。人ゴミ、花束みたいで好きです。

Water Love 液体だったら十字路を渡るほど混じり合う他者と他者

旅人が言わない言葉ランキング第2位「ブックエンド売ってます?」

バドワイザー師走の昼に買い足してこのまま駅まで行きたい気持ち

 サンタクロースハラスメント

「寒いわけだぜ。月夜だろ?」ダイアリー踏んだ汚部屋でノッポの君は

雑踏をざっざ切り分けひとりきり通過列車を待つ踏切へ

14番線山手線内回り跳びはねて乗る 殺したあとに

クリニカのチューブ絞れば洗われた馬糞のような液出る師走

豆苗豆苗豆苗DVDサランラップがひしゃげたダストボックス

んなこたこちとらわかっているつもりだから肉饅縦に齧っとけ

インタビューされそうになり飼い鳥の名前何度も唱えつつ 前へ

橇まるで灌漑作業をするように間違えながら切るシュトーレン

 Terminal has come

まだ眠りの橋を渡っている歩み 着すぎた服でUberに乗る

バスケ強そうな入国審査官待ちくたびれて訊く「honeymoon?」

Terminal has come いつも違う人好きなようにずっと新しく好き

割れるから生き直せるよマグカップの取っ手が外れて湯飲みに直る

梅花皮の気持ちを持ってお互いにあけわたす別々の灯火

「手って手のことしか言えない」「口だけは嫌だ」「眼は?」「眼は、手を見てしまう」

凧揚げの凧がそっちで揚げている人がこっちみたいな口づけ

 「京都」

刻々と変わり脈々と変わらずに山颪吹く きみの居た街


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

サポートで得たお金は、「東京性記」で得たお金同様、タイでの手術費、手術後・休職期間の生活費、戸籍の性別変更の諸手続き費にあてることをここに誓います。

ただただ、うれしいです。今後ともご贔屓に。
18
collaborator|□□□契約社員|筆記体|東京性記|歌集『起こさないでください』

この記事が入っているマガジン

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。