世界の終わり×7
『明日世界が終わるとして』という企画がテレビや動画を席巻していたことがあった。
高畑君という人物と飲むことになった。
そのとき彼は、7日連続でその企画をやっていた。
違うテレビ局やら動画やらの依頼が次々きて、そういうことになっていた。
1日目で彼は全財産を失った。明日世界が終わるのだから、金なんてもっていてもしかたないだろということで。
もちろんテレビの企画だ。あとで返金される。でも、ちょっと手続きに手間がかかるらしくて、僕らと飲んでいるときはまだ、彼の貯金はゼロだった。
2日目の世界崩壊で、彼は彼女と別れを告げた。
最後だから言いたいことを言おうということになって、電話で言い合いになった。
それっきり彼女には会えていないらしい。
3日目になると、彼は結婚していた。
もちろん世界崩壊が明日に迫っているからだ。
そこの番組のADさんにプロポーズして、なんだか知らないけれどオーケーをもらった。
嘘か本当か分からず、婚姻届けを提出して、二人は夫婦になった。
4日目の世界崩壊は特に何もなく世界は崩壊した。
世界が崩壊することに彼は慣れていた。あるいは自分の生活が崩壊していくことに。私生活では新婚生活を満喫していた。
5日目は、共演者の先輩や番組のプロデューサーや監督やら、とにかく偉い人を殴りまくって、彼は番組を終えた。
その後この映像が流れると、彼は業界で知らぬ者がない存在になった。そして引退した。
6日目。5回も世界崩壊前日をじたばたしていると、もう次第に他の人たちがする人生最後の提案にも、感動というものがなくなる。
昨日何人かの人の顔を殴ったせいで、手が痛かった。
ということで、みんなの提案をことごとく却下して、彼は病院へ行き、レンタルビデオを借り、仕事中の新妻を早退させ、共演者とともに部屋でビデオを見た。
後日、彼の出演はカットされた。
そして7日目。僕らと飲んでる。
美大の動画制作で、つてのあった彼にも来てもらったのだ。
彼に来てもらったのは正解だった。
やはり6日も世界崩壊を経験した男は違う。
いたって普通なのだ。日常の中に非日常が内包されている。
作品に重みが備わった。
これが評判で、彼は共演者を殴った芸人から、役者としてやっていけることになる。
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