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停年

朝の時間に本を読むことが増えた。今はマグロ学(中村 泉著)を読んでいる。
”一生泳ぎ続ける理由とそれを可能にする仕組み”というキャッチーさに図書館で本を手に取った。

読み進めてみると、普段何気なく食べているマグロについて、そういうことか!と納得する内容が盛り沢山で当たりだった。

面白かったのが、「脂がのる」の語源知ってます?クロマグロのトロのことっすよ。というところ。
マグロは進化の過程でエサが潤沢にある緯度の低い温かい海から、緯度が高く、エサも少ない遠洋に足を伸ばして冷たい海に対応するために脂を防寒着として蓄えだした。というのだ。

脂がのった人間は同じ分野で成長できるという意味で期待を込めて、「脂のってるね。頑張れよ!」とか言われたりするが、マグロにとって脂がのることは今のいるところからバイバイして、全く知らん遠くの海に行ってしまうことで、人間の脂がのるの感覚とは全く違うことがわかる。

マグロが一生泳ぎ続けるというのも、泳ぎ続けて体温上げてということで、マグロは文字通り眠ることなく一生働き続けるらしい。(厳密にいえば、夜の間は代謝を落として低速で泳ぐので、眠るとは違うが眠るようなことがこれに当たるのではと中村さんは言及していた)

また、本の中でマグロの刺身が一番旨いのは「12℃」と書いてあり、漁に出て船の上で刺身喰いたい時に、通常だとこの温度は叶わないのだけど、冷蔵庫を持ち込んで船上で8℃にキープしたマグロを口に運ぶと口の中で最適の12℃になってバキバキに旨いと話していた。マグロに関わり、マグロをこよなく愛する中村さんでも温いマグロは不味くて喰えんと書いてあった。親戚の集まりで出される寿司盛りが後半残りがち問題の解が出たようでスカッとした。

本を読んでいて、誤字脱字なく完璧な体裁と思っていたら、ていねんという感じが「停年退職」になっている。中村さんコレの時のていねんは「定年」の方じゃないっすか?と思ってたら、2回目も同じ漢字を使ってたので、これは誤字ではないな意識的に使っているなと辞書を引く。

結論は明快であった。定年と停年は併記されてて、同義だったのだ。むしろ年を停めると書いて、停年の方が先輩ぽい。その後、法令表記などで皆が知る定年が定着したようだ。

でもなぁ、停めるってバス停留所みたく中継所の意味合いが強いから、年を定めるという定年とは同じ釜の飯は喰えんよなぁ。と個人的には思う。

定年という言葉にすり替わったのは、「罠」な気もしてくる。55歳定年と線引きして、リタイアという人をいっぱい作る政策。元々の停年では、線を引くという感じはしない。あくまでも駅で停車してて、時間になったら出発するのだ。

65歳まで定年を引き上げましょう問題などと言われているが、停年であれば何ら問題がなかった。

今こそ、漢字は「定年」でなく「停年」を定着させるべきだと思う。

そういった意味で中村さんは文中でこの言葉を意識的に使用した。ということで納得する。

昨日、聴いていたラジオでミュージシャンが自分のやりたいことを突き進めることを、DJの人が「マグロみたいに止まったら死ぬ」ですね!と形容していた。

マグロの世間のイメージってこれだと思う。中村さんの本を読む前は私もこのイメージしか持たなかった。が、がである。この本を読んだら、マグロの奥深さがわかったし、止まったら死ぬという一言ですませんなよ!とマグロ側につきたくなる。

著書によるとマグロの天敵は特に成魚になった後は少なく、サメやシャチとかいかにもなヤツにしか狙われないらしい。つまり、近海でぬくぬくと暮らすことができたのに、あえて遠い、寒い海を選んだのである。この点については、中村さんも分からんと書いてあった。(そりゃそうだ。マグロの気持ちは誰にもわからん)

その恩恵でトロをたっぷり蓄えて、今日われわれは「大トロ」が旨い。「俺は中トロ派、いや赤身こそマグロの醍醐味だ!」などとマグロで盛り上がれるわけである。

本を読む。面白かった。それでもいいけど、何か自分の中でも蓄え(トロ)が欲しいところである。マグロのことに詳しくなったので、回転寿司でマグロを口に運ぶ瞬間が違うものになりそうで、今からワクワクが止まらない。

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