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「ふれる」という作品世界について

NovelJam2019の最優秀賞は恐らく大方の予想通り「ふれる」でした。
個人的には一番人気馬が先行してそのままゴールした感じです(競馬好き)。


ふれる、に関しては自分の体験も踏まえてちょっと書いたのですが、紙本を手に入れましたので再読。
紙が好きなんで紙っていいな~~~~ってめっちゃ思いながら読みました。


さて、物議を醸しだした「ふれる」のテーマ。妊娠。
個人の体験をふんわり入れながら語って行きますね。

ふれる、の主人公は流産を経験しているのですが、その原因が「免疫力が強すぎる」というもの。実際に胎児というものは理屈抜きに身体の中では異なる生命体が生きているという状態なので、免疫力が胎児に向かってしまう……という原因で流産を複数回経験しています。
その彼女の3回目の妊娠。

全然ハッピーじゃない。たまひよの「た」の字もない。淡々と、非常に淡々と彼女は日常を綴るんですよ。もう空気が重い、けど淀んでない。すごくないですか? すごいさらさらと流れていくんですよ、作中の時間は。でも、すっごく重い。テーマがそうというか、文体のリズムがそうさせていると思いました。
でも、時折ハッとする言葉が出てくる。キラーフレーズが本当に心に突き刺さる。
わたしが一番キラーフレーズだと思ったのは「字面の凄みに改めて気づいてしまう」でした。その一行前を見返してぎょっとしたもん。

「ふれる」の命題には、「ふれられない」とわたしは感じました。
寄り添えるけど、わたしはふれられない。
触れずに、あなたの痛みに寄り添いたい、と。

こういう「実体験を元にした小説」とは思えないほどのリズムは本当にすごい。読みやすく、けれどもきちんと成立した文章。書き過ぎず、書かれ過ぎない行間。
紙で読んですごく良かった。自分の本になった。
装丁も、なんか和紙っぽく見えるでしょ!? これ印刷なの!? すごない!? めっちゃすごい!


こっから、どうしてわたしが「ふれる」激押しなのかということなんですが。


わたしは自分も妊娠能力がないのですが、兄にもありませんでした(男性不妊による不妊治療をして人工授精で子供を設けた)。
母はわたしたちを産むとき半年ほど入院した経験もあり、通常イメージする妊娠出産をわたしたち親子は誰もしていません(兄嫁には大変申し訳ないと思っています。男性不妊でもつらい思いをするのは女性が多い)。

知ってました? 帝王切開って「異常妊娠なんですって」。うちの母親はいまでも「お腹を痛めていない」といいます。陣痛きたんでしょ!? 帝王切開したけども。陣痛損じゃん!!! と陣痛を引き起こした挙句帝王切開させたかつての赤ん坊は思っています。

わたしは妊娠経験が一度もありません。
でも、婦人科疾患を罹患していたので、産婦人科への通院や治療金額はかなりのものです。なので、産婦人科の独特の椅子に座った経験も、超音波検査も、勿論経験あります。
病状が悪化して肺に内膜が出来、吐血したこともあります。もうおさまったけど、あの時は「沖田総士はどう思ったんだろう」と謎の辞世の句を詠みかけました。

あの椅子、健康でも怖い。
健康じゃないともっと怖い。

そして、どんどん無気力になるのも、苦しいのも悲しいのもぐるぐるするのも理解できる。


何度も言うけど「あなたの物語」であり「わたしの物語」にもなりえる作品だった。
金額も、女性の流産の確率に合わせている。

しずくさんと昨日撮った写真はすごいいい笑顔。
大切な写真になりました。

「ふれる」が最優秀賞になったことが、とても嬉しい森きいこでした。

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ライターです。好き勝手書き散らかしたり、観劇の記録だったり、いろいろです。
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