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『Web3が音楽業界(他)にもたらすオーナーシップエコノミー』~【新しいWeb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.8.11

■WIRED:Web3が音楽業界にもたらすオーナーシップエコノミー

WIREDのインタビュー記事「Web3が音楽業界にもたらすオーナーシップエコノミー:MUSIC NFTs 101 FOR ARTISTS」をピックアップ。

タイトルが「音楽業界」とあるので音楽×NFTや音楽×トークノミクスに興味関心がある人のアンテナにキャッチされそうですが、「音楽業界」に限らずweb3全般の基礎理解を深める、web3に興味がある人全員にお勧めすべき内容でした。


■web3の特質はオーナーシップエコノミー

このインタビューでジェシー・ウォールデン氏はweb3の特質はオーナーシップエコノミーだと位置づけています。

ブロックチェーンがどうとかトークンがどうとかいう切り口でweb3を理解すると技術的なweb3の理解になりますが、web3=オーナーシップエコノミーだと捉えれば「何に変化をもたらすのか」が理解しやすくなります。

つまり、今オーナーシップエコノミーになっていないものがweb3によって変化していくよ、と理解できます。

このインタビュー記事のでは、オーナーシップエコノミーになっていないものとは「中間業者がいるビジネス」と捉えてよいでしょう。

ミュージシャンが音楽活動で収益を上げる際、コンテンツクリエイターが消費者=ファンから直接お金をもらうわけではなく、中間にたくさんの役割や仕組みがあります。そのため結果的にミュージシャンはファンからの収益を間接的に受け取ります。

流通、広告宣伝、権利管理、イベント企画運営など分業制になっているので間接収益になるわけで、それ自体は必要なものです。しかし時代や技術の変化によって分業していたものが不要になったり、自動化などで超ローコストになったりします。

にも関わらず慣習や利権で旧来の中間マージン構造が温存されているものが特に多く見えるのが音楽業界ですが、ほかの業界でももちろん同じような構図は多くあります。そのためこのインタビュー記事は音楽業界以外の人にも参考になります。


■漸進的な分散化への3つのステップ

クリプト領域のスタートアップを成長させるうえで、「Progressive Decentralization(漸進的な分散化)」という考えを提唱しています。そこには3つのステップがあり、まずは人々が求めるプロダクトをつくること、続いて、プロダクトの周辺にユーザーが集まるコミュニティをつくること、最後にプロダクトをコミュニティへとイグジットし、ユーザーをオーナーにすることです。

これはよく言われますね。

まずはPMF(Product Market Fit)。市場に需要があり受け入れられるプロダクトを作る必要があります。

今までのWeb2ではPMFに成功したらそのままサービス自体を拡大し、抜けられないモデルにしていくことが王道でした。

プラットフォームビジネスがWeb2の花形でしたが、たとえばAmazonはShoppingでAmazonアカウントを開設すると、Prime Video、Music、Kindle、Audibleというコンテンツ市場を展開しています。どれかひとつでも使うとAmazonアカウントをなくすことが難しくなり、プラットフォームに囲い込まれていきます。

そしてAmazon自身はオーナーシップをAmazon自身が持ち続け、ユーザーやコンテンツプロバイダーにオーナーシップを譲るつもりはありません。なのでコミュニティを作ることもありません。

web3でもオーナーシップエコノミーと言いながらWeb2っぽい中央集権的プラットフォームサービスばっかり、に見えるのは実は、いまPMFを頑張っている段階だからです。


PMFに成功した後がweb3は発想が違います。

開発したプロダクトのユーザー=将来のオーナーを集めてコミュニティを作り始めます。

PMFに成功したらどんどん運営のオーナーシップパワーを強めていくのがWeb2の在り方だし成功モデルでした。しかしweb3ではオーナーシップをユーザーに移譲しようとします。

中央集権的なオーナーが孤軍奮闘して拡大するより、ユーザー全体巻き込んでいった方がプロダクトが発展する、プロダクトが発展すれば初期プロダクトを立ち上げたオーナーにとっても(独り占めはできないけれど)結果的に利益になる、という発想です。

ただし、どの段階でオーナーシップを移譲するかは目的やゴール設定に依ります。最初のプロダクトの成功だけでコミュニティにオーナーシップを移譲するのは構想が小さくなるケースでは、もっと全体構想を完成させてから移譲するという場合もあるはずです。

たとえばAmazonがShoppingの成功だけでオーナーシップを移譲していたら今のGAFAMと呼ばれる規模にはなっていないでしょう。Googleが検索エンジンの成功時点でオーナーシップを移譲していたらAndroid OSは作られていないでしょう。


最後に、オーナーシップ=運営権をユーザーに移譲します。

初期メンバーが残るケースもあればいなくなるケースもあるでしょう。創業家の影響が大きい場合もあれば、ほかのユーザーと同列という場合もあるでしょう。

ここを目指して初期プロダクトのPMFを頑張るのがweb3プロジェクトっぽさだと今回のインタビューでは位置づけています。


■オーナーシップエコノミーに移行しなければweb3にあらず?

NFTや暗号資産を使った、音楽に関するプラットフォームサービスを立ち上げれば、web3の技術を使っているのでまずは「web3音楽サービス」と認知されるでしょう。

しかしその先、オーナーシップエコノミーに移行するつもりがあるプロジェクトは実際のところ少数かもしれません。

株式会社が株主の投資資金を使ってプロダクトを作った場合、オーナーシップエコノミーへの移行によって株主の利益が最大化される絵を描けなければいけません。

スタートアップ・ベンチャーがVCのファンドを使ってプロジェクトを立ち上げた場合も当然同じです。

有志が趣味で作った最初からDAOプロジェクトというのは人が集まりにくく絵に描いた餅になる可能性が高い。BitcoinプロジェクトやNinja DAOのようなケースは再現性がとても低いと思います。

またオーナーシップエコノミーへの移譲をした結果、強力なリーダーシップが失われてプロジェクトが弱体化する可能性だってあります。

Web3×音楽のプロジェクトの多くはプロダクト・マーケットフィットを模索している段階で、最初のステップにいます。CatalogやSoundの周辺には非常に熱心なコミュニティが生まれているものの、オーナーシップを移譲する準備はまだ整っていません。ただ、プロダクトをスケールさせる際にコミュニティを優先するという道を選んでいます。

プロダクトをスケールさせるためにコミュニティが有効に機能している状態、というのはとても理想的です。運営が善良に機能し、コミュニティもスケール拡大に有効に機能している状態があれば、事実上オーナーシップがコミュニティに移ったというか、運営がコミュニティを無視できない状況になったということでもあるはずです。

運営が過度な利益独占をすればコミュニティが離反するでしょうし、形式上株式会社が一次利益を収納し、クリエイター(今回の記事ではミュージシャン)に二次的に収益を支払う仕組みが採られたとしても、妥当であればオーナーシップをクリエイターに完全移譲する必要もないかもしれません。

無理に移譲するとクリエイターは余計な仕事が増える恐れもありますし、クリエイターはクリエイティブ活動に専念できることが第一で、不当な搾取がない信頼できる運営が適切にサポートするのはアリなんじゃないかと思います。

つまりオーナーシップエコノミーに移行しなければweb3にあらず、というわけじゃないでしょうし、web3化するためにオーナーシップをクリエイターに移譲した結果うまく回らない状態になるのも本末転倒という感じがします。

何事も手段と目的を取り違えたらダメ。web3化することが目的化しちゃいかんと思うのです。

そのうえで、中間業者のマージンが不当な部分から徐々にweb3的なオーナーシップエコノミーのエッセンスが加わっていき、だんだんクリエイターが生きやすくなっていく、ってことだと思います。

フリーランスのスキルとジョブのマッチングサービスなんかは運営不在で完全自動化されマージンゼロになる未来が見えます・・・

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