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森幸生
2023年6月25日 20:07
僕たちを乗せた特急列車は、西へ向かう。 平日の昼間とあってか、車内はすいていて、クロスシートに膝を突き合わせて、二人で座った。 目指すは、この国の最西端。アゲハの家は、海に囲まれたその町にある。 アゲハがいたのは、携帯電話もタブレットも与えられていない密室で、外部と連絡をとる手段はなかった。しかし今は、ここに僕のスマホがあった。これを使わない理由はない。「ほら。帰る前に、家に電話入れと
2023年6月28日 21:40
西の地平線に残された一条の光が、細く細くなっていき、最後には糸がちぎれるように消失するさまを、僕はみた。その中を、アゲハに手をひかれて、僕は走った。「アゲハ。あそこ!」僕は指差す。 ――小学校の校舎だ。 残り三百メートル。 さっきまでは足元に伸びていた影が、もうみえない。見渡す範囲に、人工的な灯りも見当たらない。 正門の鉄柵には、人ひとり通り抜けできる幅の隙間があった。 昇降口の