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航海誌

 転載 66%無料 架空の叙事詩的なもの 順不同 現在59 100行ったらやめようと思ってるんだけど行かない

1:
 月に架かる虹。退屈な航海記。針路を横切ってゆく魚群のしなやかさ。生涯煉瓦を運搬し続けた奴隷。酋長跡取り。ぎょろ目の海兵。あくびをする猫。旅先の流行り病。親を食べたって噂のペリカン。魔が差したんだよ。二人までは本当だった。略奪を率先する限り神は汝をお許しになりません。逆さ磔。断頭。

2:
 野望の検死。医者も野良犬。破けた腫れ物。血膿の産湯。刑場生まれは皆鼻つまみ。捨場の埋み火と化す事逃れ。不幸自慢に来る日を暮らす。あぐね大見栄切っても出たが。天下の峰は鼠返し。公方に担がれ元の木阿弥。果ては故郷に素っ首飾る。医者は聞きしをつらつら連ね。さて誰か。此奴の諱を知る者は?

3:
 釣り人胡座。葦は放題。桟橋ゃ再帰の阿弥陀籤。人魂宿無き幽玄境。滔々丸木の漂着す。御主は苦海の応報じゃ。御坊は乳海で奉公じゃ。ううむ御仁は玉緒も定か。星を頼みに遡れ。命数尽かせばまたまみゆ。びくを覗くと分限の髄。儂を潤す手間賃じゃ。守りは河童と早変わり。慌て舟漕ぐ、紅毛、狭間ノ介。

4:
 不自由の締結。見かけの尋。青海原には蛸壺ごまん。引揚船の倉干上がって。翌催促の軍靴も轟。滝汗伝う背に埠頭。安い勇魚絵が閃いて。はやも忘れて聞き捨てたか。俄か鬼謀を競る手は数多。いずれも外道獄吏の類い。最後通告は凪そのもので。紡錘をやる。遅れは遅く巻き返せ。縺らば撃つが、堅く綯え。

5:
 村外れへ続く参道。地縛霊と狐の混淆物。日は傾ぎ影青々たり。教会は世の事始めよりもう、婚儀と葬儀を積み果てた。あぶれた者だけが今、天の門扉を潜り漏れ、贖えぬ者達だけが今も。冷えていく音がする。木漏れ陽が立ち冷えていく。知らぬ民家の厨でも、練られた生地が冴えゆく。疾く星の垂れ来、音。

6:
 たらいに露が降り集まり。暴れたがる。顔を削った天使らは。理想的環を描いて宥める。ただし無限には程遠い。下部は死に物狂いで箍を務める。虚血した手を握って千切れんばかりに結束する。ただし決壊の時が来る。ごみごみたる地上も恋しいから。こうした機序のつづきに、聖なる雨季が催される訳です。

7:
 川中島の冷血鬼。伝染した娘は早瀬の藻屑。嫌に鋭い糸切歯。紅葉牡丹の三昧に重宝。天道を拝む義理もない。参るのは来る日も立ち往生。たった三間の幅ではあるも。越せばたちまち三途の渡し。杉の木組みのお棺の中で。諸国漫遊夢ばかり。落人狩りも今は昔。せめて誰かの温ったけえ血さえ啜れりゃあね。

8:
 名も不確かな入江には丸々太った猛虎あり。朝ごと婆羅門の精悍な体をぐるぐると狩り眼で舐める。瞑想から脱けた僧は寸毫身じろぐ。虎は畜生と雖も仏の分身に殺生が憚られたか、施しを食い潰すに留める。やがて苦行の甲斐で骨張った僧に牙を剥いた頃、虎は大いに鈍り、数多の信徒に棹で打ちのめされた。

9:
 男は屋上から落下していた。知らぬ言葉でわめき立てる家内と、もみ合いの末に突き落とされたのだ。夜に男の意識は絶えて、目覚めたが落ち続けていた。幼少の砌、賤民に積ませたアーチを過ぎた。先代の務め上げた大仕事も、伝承に聞こえたバルコニーも過ぎた。男の意識は薄れ、目覚めても落ちていた。

10:
 専門医は牛骨を被っていて。雌雄をにかわで継いである。荷担と期待をすり潰す。なじんだら瓢箪にしまう。痺れは痺れのあるべき時に。鯉はオアシスに屁はふいごに。雛はまだ巣に。使節団が軛に繋ぐ。鞭は私を引っ越させるだけ。体は体のあるべき人々に。凶夢と蝗と目一杯の熱灰は、なかるべき客の喉に。

11:
 生涯時間を計算し。錬金術師は旅に出た。埃っぽい工房も売っ払ってしまった。気球は遅い。助手はのろまだ。空には黒い水晶が二つ。いつまで付きまとう?根比べといこう。やがて巨大な壁面が現れた。航路を気流に沿わせる。気球は世界の外へ出た。黒い水晶が見下ろしていた。錬金術師が、無謀な造化を。

12:
 あれは新島です。忽然と現れた。いや、博物王の海図を見よ。超大陸は誤りであったがあの島は描かれている。いやいや、信憑性を欠く文献を俎上に戻すな。いやいやいや、貴君の手柄などない。まあまあお二方、なんにせよ実地調査が要る。学者たちが上陸すると、巨鳥は飛び立ち、虱の群れを振り落とした。

13:
 海峡塞ぐ奇岩は敗れ。半鳥の箏が言うことには。狩人が蠍の目玉から逃れるまでに。沖に小倅が立つまでに。鵲が橋を組むまでに。再び訪ねて下さいまし。でなくば我ら、今生の別れとなりましょう。総員。耳を貸すな。互いに縛れ。秋波はいつか呪詛混じり。あなくやしや。真蛇の相で石と化し。自沈の水柱。

14:
 渡世に明るき小麗人。お鉢を題して丼号。親指一寸の簪を佩き。蕗の繁華に雨宿り。下戸や下戸やとお殿方。失敬、眼中に御座んせん。鼬に半裂、数う能わず。埒外連中、我流の刺し子。つと羽織はだいた肩に現る婀娜な青海波。温い博打は打たせんな。怖じせぬ阿呆と仕合わせとくれ。度肝を掴む鯔背がいい。

15:
 人質の御前、木簡をして訊ねる。其方も蓮は咲いたるや?法師は存ぜぬ。生憎昼も暗き身にて。もとい、海幸は旬かや?木の肌なぞり裏地に刻む。舌も痺れ適いませぬ。羅刹が大将軍、戯れに問い継ぐ。霖雨はどうか?ええそれなら。返事はとまれ琵琶一弾き。機と聴く神解けの皇子、鰐の援軍と撃ち出でけり。

16:
 大王槍は大筒にねじ入る。蛸の知恵者が潮の目を読む。伊達の鯛卿と隠形の鱓公、鯱に跨り駄津を構える。背なを固めしは鉄砲魚らの種子島、蝦蛄らは銃拳、十重二十重。玉貝は作る鉄具足。海胆に海月は拒馬を張り。海牛海鼠は領海を照らす。望月たわわな今日この宵。放卵の竜宮本丸を守れ。鬨。不惜退転!

17:
 岬の塔で虜となり。巫女はしくしく泣き明かす。嗅ぎ慣れた風はなく。鉄格子の外は高すぎる。お優しい鳥さんが。助けに来ないものかしら?巫女は天へと祈るだけ。ある日空に粒を見る。巫女は蔦張りの弦を引く。鉄窓もいだ矢が放たれ。海鳥を塔へ射落とす。月に狩る女神の姫巫女は。古巣に帰る翼を得た。

18:
 岬の先へ滑走し。舳先に留まるマンタは何だ。曳かれるはしけの絨毯に。杖をかざして直立する。瞼は重き。ぼろぎぬ上人。払暁色の夜眼を射る。溺れる藁を見て取れば。らんちうランタン差し遣わして。人の巷へ導こう。水難者の眼に焼き付くものは。霧中渦中をきらきら照らす。魚尾がたなびくほむら模様。

19:
 川面を埋める浮葉を分け。亡きつまの手足掻き求む。冥府のお水は冷たかろ。河馬のお沙汰もむごかろよ。骸縫わせよ彼が為。一目会わせよおらが為。サンダルは向かう坂の下。ちんとしゃウードを掻き鳴らしゃ。番犬たちも手に懐く。千人力の岩戸もどく。根の底の鬼を引き連れて。最後の心臓を取り戻しに。

20:
 ミサの間には壁龕を飾る。骨相学者だった杯。蝋人形師だった石鹸。風刺画家だった曼荼羅。タペストリ織りだった装丁本。トピアリストだった彫刻。船首大工だったトロフィ。鏝絵左官だったデスマスク。つくり主様はつくれません。聞き分けないからこうなるの。戒めの任は西また東に。嗚呼伝道の忙しさ。

21:
 悪夢を見つけた科学者がいた。十の同盟者が難色を示し。裏で四つは援助を寄せた。痺れを切らした一国に。科学者の甥が拐われると。一夜に一国が更地と化す。同盟には波紋が広がり。隠棲の科学者を付け狙う。招待状と郵便爆弾。悪夢の源を我が物にと。甥御が必ず立ちはだかる。まるで歩く金庫のように。

22:
 盲従の痩せた足幾重。解呪を乞う嗄声幾度。敬虔なる諸君には静聴されたい。天はいやちこに南中せり。ここに持たらすは託宣なり。明日にはお駕籠の流れ着く。背に来光を負うたる客人は。地のこの果てへもみ行きに見える。我ら諸族をとこしなえに栄えさすなり。されど今暫く甘受あるのみ。布告を終わる。

23:
 亡命者らは帆を張った。暴露本の版を肌に仕込み。夜なべにかこつけ漕ぎ出した。引き潮がそれを引き寄せた。岸が離れる。岸が離れる。岸は滞りなく離れた。海峡を越え櫂を振り。隣国まであと何マイル。友や子の面影振り払い。けれど引き潮が押し返す。岸が離れる。岸が離れる。岸がまたもや離れていく。

24:
 黄金に飽いた侯爵は、飴細工の自動機械たちを放免に処し、糸の切れた顔で自嘲した。猛り狂った群衆は迫る、爛れた骸を踏みつ越えつ。その我が力ならざるに酔うたまま、裏なる車を数えぬうち。首脳がすげ替わる劇を見て、真の病巣がほくそ笑む。彼は目覚ましい悪役などではなく、精々が芥子の一粒だが。

25:
 隠し砦の番兵は。北で上がった狼煙を見て。橋を落としてその日は寝た。朝には橋は架かっていた。敵は友軍に討たれたと。明くる年にも橋を落とした。朝には架かっていた。敵は荒れ地が阻んだと。明くる年の、鶏の鳴かない日の事だ。橋には泥が付いていた。戦火に巻かれた都を見て。隠し砦の番兵は寝た。

26:
 数奇のターン。美学のターン。薔薇は二つに。栄華は一輪。絹の翼は折り畳み。水面下で蹴落とし合う。踊る銀糸やカトラリー。流血は主題に隠れてしまう。さても残るはご両人。鏡写しに願うは一つ。あの軽佻浮薄の白嘴を。あの直情径行の黒蹼を。代々忍んだ恥辱とともに。湖の泥深くに葬り去ってくれる。

27:
 スコープを霜が奪う。摩訶大大三角氷域。点呼がいや消す隊士名。主張の符合。隠れ鬼。切れ切れ舞いする活版碩学。群れる陣風クリョーネ蝶。喚く餌食を咥え捕り。油膜色した寒空で。放り砕き貪り付く。微温平らげ〇にする。未明の凍土にしみ入る骨格。「餐、恙なし」とありし日の。日報踊るを打つ雪や。

28:
 外輪がもぎ取られ。名も無い舵子が荒天の海へ投げ出された。舵子は一心念仏唱え。体はなるたけ縮こめて。翻弄されるに委ねていた。際涯の瀑布を下り。大鯰の髭に打たれてなお。水夫は石をまね続けた。とうとう皮はふやけぬし。息も足場も要さないが。水夫は戻るに戻れない。星一条もない渾沌の底では。

29:
 子午面循環。標なし。どぶのどつぼのなお深み。時は淀み化石に同じ。蘭人艦隊這いずっては。出会い頭に希臘火。呵哈哈者共、残らず渫え。鼻から尻まで毟れや奪え。花火師上がりの骸骨は紫煙があばらでだだ漏れて。財宝は嵐に捨てた荷で。今しも崩れん泥舟同士。巡り巡れど海蛇身中。誰ぞ奴輩憐れむか。

30:
 延ばし延ばした手蔓に藻蔓。うしおの底の雪拾い。混みつ縺れつ手蔓に藻蔓。毛細発条赴くままに。栄えよ繁れよ手蔓に藻蔓。末は枝たれ這いずり回れ。妖し儚し手蔓に藻蔓。捥げた半身萌えて懲りせず。行けば戻らにゃ、逃げと隠れの、疾かれ鈍かれ、手蔓に藻蔓。退却戦は楽しや楽し。巣穴知ったる花電車。

31:
 夜のように我が手は黒く。熱き血潮を雨に蒸し。呪い溜まりは切り離したが。浸透圧の鎖は遅い。月は村雲の御簾に隠れ。藪には露が滑り落ちた。旅人の捌けた宿があり。花瓶の首がずり落ちて音。夜にもまして行く手は黒く。すれ違う面相は定かならぬ。夜のように我が手は走り。後には何人も残さぬだろう。

32:
 魔王気圧嚢に孕まれて。渡来獣が逗留しているという。なんでも奴は暗雲に寝そべり。吻はそろそろり嗅ぎ垂れて。偽典の墨を探り当て。三等水夫が船酔いも。悪漢情婦が織った予感も。浜で膨れた旧神の。腐熱走馬灯もバクバクと。黒い蜜を吸い取るらしい。離島は噂で持ちきりで。当面食うに困らぬらしい。

33:
 食道楽で鳴らす藩侯は。前講釈なぞそこそこに。ご馳走しこたま振る舞った。列席者が捌けたあとで。こそつく侍童を見咎める。食い気は重畳大いに重畳。だがそれそこよ、釜の底。張り付いた黒焦げの蛙。あは厄除け。食べてはならん。無作法者に混ぜてもてなす。贅を極めた品ゆえな。童子の匙が震え出す。

34:
 崩崖を押しとどめて物言わぬ。一家相伝の鉄巨人。大腕が囲める花園を。手入れて育った箱入り娘。今日は鋏も携えず。涙まじりにかざすのは。家紋刻みしエスカッシャン。浮かぶランスに白甲冑。茨脈打つ心臓部。背に吹く陽炎の羽二つ。飛んで果敢のその跡に。轟音、飛沫、花の嵐。花の。花の嵐に花の嵐。

35:
 鉄兵刻む音。肩擦り合わせ。物々しく事々しく行進。鉄兵捧ぐ剣。丈ただ高く。旗旗めく楯楯突く臨戦。煤吐く黒船。回す外輪。騒々しく驚々しく大筒。鉄兵差す棹。波跳び越えて。続々と着々と出陣。鉄兵奮う。倒し倒しても撃ち寄す弾雨。鉄兵抜く釘。滾る血潮。淡々と辿々しき秒針。鉄兵散る。一隻貰う。

36:
 路肩には香箱寝そべり牛がいる。飾れる音叉とアラベスク。割れ鐘に代え伏魔ヶ時を知らしめる。宴の間には椰子の葉とダガーで舞う侍女には惜しい侍女がいる。鬼面童子は紛れ込む。木端役人ラムの徳利ちょろまかす。隊商頭は床の白亜へ大風呂敷。好々易者の笑わぬ眼が。後の祭りから物を見る。下手人は。

37:
 ノイローゼの犬。下世話なランチ。ストリートは阿片みずく。媼を支える杖の鞘鳴り。背むしの小兵は呪い大工。勝敗のわかり切ったテホで。空き瓶を増やす空騒ぎ連中。ようやくウェイターが腸詰めを人数分。我勝ちに含んだある口が。標的を書いたメモを吐き出す。当たっちまった。一丁ぶち殺してくらあ。

38:
 試験当夜は飲み明かした。頭痛を除けば目下順風。燃料推移の下振れは。潜むインプの分け前か。舵は左がやや軽い。天測計は水準以上。野人の池や巨人の釜や。蝋翼人の轍はかわし。目指さくはあの奈落へ注ぐ瀑布線。天道の寝所を侵し。はかを取り必ず帰る。郷土を踏んで世に証す。人海に出づる飛ぶ船と。

39:
 お喋りな肩乗りオウム。駄馬潰し具。肺に溜まる綿。八つ子の蛇精。切り株ニシン。在来の雄。ちゅんちゅん沸き立つ水銀列柱。織工婦人団とぺぱあみんと号。死滅回遊魚。右も左も型式通りの鈍亀ばかり。点火秒読み待ちかねて。エンジンも武者震いがする。今晩限りお釈迦でもいい。姿勢小さく。大金星へ。

40:
 蓬莱帰りの緑毛亀。涙々の生き秕。ざんぶと噛み付く不沈甲。熟れてあたかも溶融炉。万年微動大陸帯び。十二時方向宇宙卜。背に痒いぼやを渦へ呑み。鰭の櫂に爆ぜる水面。雲張り替える蜃気噴き。藤壺砲塔上向けて。迷信深く海嶺更けて。潮流波瀾掻き渡る。縷々筋纏い解いていく。泡立つわだつ声が満つ。

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