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インド可視

indivisibleを遊んで下さい。

                                                                                                                                                                                                                                                                              

含まれるもの
・多様性 ・・・女前レズ、被加虐嗜好のゲイ、戦うシングルマザー、片方死んでる双子、両腕萎縮の踊り子、マジで喋れない犬などが仲間になり、特にツッコまれません
・あるある ・・・開幕焼かれる故郷、空中要塞と悪の覇王、砂漠に閉じ込められる、塔の上の隠者、船入手で世界が広がる、結界で守られた古代遺跡、機械化帝国、ネオン輝く背徳の街、何年前に世界を救ったパーティ、試練の霊山、闇の中で自己と対話などなど
・変な武器 ・・・主人公の武器は入手順に拳法、斧、爆撃弓、鬼神化、槍、鎖鎌などで、特に槍はかなり奇特で広範な扱いを受けます。絶対あんなことばっかしてたら折れる。仲間ではウルミンだの鮫歯剣だのバリスタだのスチーム巨腕だの惜しげもなく飛び出します


かなり裏をかいてくる
 俺のプレイ歴からだとクロノクロスと聖剣伝説2・3が思い出される感じでした。決して旧来の模倣に終わるという意味ではなく。以下具体例。
 ちなみに俺はテイルズやサガやゼルダ、FFの有名どころ(VII・X・XIII)、そのほか最近のRPGを軒並みやっていないのがコンプレックスで、そのへんの視点を拾えていない懸念が大いにあります。なおGGはわかります。


仲間がバカみたいに多い
 クロノクロスの名を出した主たる理由です。一度に3・4人しか出せないうえ主人公が1枠占有してる非SRPG型にもかかわらず、仲間がバカみたいに多い。ちょっとしたユニークNPCかな?ぐらいのグラフィックのやつでも、話しかけたらかる~く参入してくるし、そこまでの端役一人一人に割かれるイベントは流石にささやかなもの。その代わりバトルメンバーの取り合わせは無限大に試せて、固有技が乱れ飛び、関係図はやがて網目の如くになり、クリアする頃には村が作れそうな大所帯。これもそういうゲームです。
 違いとしては、必須加入陣はメインイベント中、パーティ構成とは無関係に固有のセリフを持ち、声付きで喋ってくれます。メインイベントはNPCも喋るのでビビりました。声の会話劇を相当重視している。クロノクロスは結構な重大局面でもセリフが語調以外汎用だったりするのが、進行の自由度を高めるコンセプトや作業量由来の苦肉は感じる一方で惜しい所でした。
 あとはまあindivisibleの方が短く、クロノクロスのようにパラレル周回前提のキャラ・ストーリー収集要素は(たぶん)ないので、ボリュームでは普通に引けを取ってると思います。ただ俺みたいな物忘れの激しいプレイヤーのキャパが圧迫されることもないでしょう。


同行理由
 始まった直後に家族を殺され、必然的にその仇が生じます。しかし彼は秒で仲間になります。和解は経ていないどころか、常に反目し合ったままです。主人公には「仲間にする能力」のようなもの、詳細には額の精神世界に閉じ込めて戦闘時のみ解放する能力が半暴走状態で備わっており、おかげで必ずしもお互い望まぬ相手が加入してきたり、主人公と意見を違えた面子がいても強引に連れ回したりといったカリスマ性に欠ける事態が、以降も頻発します。タイトル通りの「引き離せない」です。
 俺としてはこれは、語り手が「巨悪に立ち向かう勇者と固く信じ合った仲間たち」を大手振るってやり始める前に、「他人同士が会ってそこらで意気投合し、目的へ向けて一丸となり、いつでも呼び出しに応じるのって非現実だべ?」という内的ツッコミを抑えきれず、あまつさえ設定の根幹に据えやがったものと思います。ヒネくれてますよね?俺はそういう無駄にしんどい踏み込みを愛しています。まあ移動中のアクション要素を強めるに当たって、仲間にずっと追従させると視覚面実装面ともに煩雑となる、のような制作の都合もありそうな気がしますが。
 仇氏が一介の敵兵士にすぎず、いちいちそりの合わないやつである事も、すごく申し分ない意味へと昇華されていったので、割りと唸りました。


ラズミは名コメディリリーフかわいい
 一段落書けないキャラはいないというぐらい全体的に濃ゆいのですが、全員挙げていっても楽しみを削ぐため、ラズミ一人について紹介するに留めておきます。
 ラズミは森の中で出会うけだるげな女シャーマンで、戦闘ではランプに封じられた愛虎の鬼火での魔法攻撃と、鈍化と全体回復を繰り出します。そしてクソ遅いです。戦闘システムはパーティ対抗の格ゲーといった風情で非ターン制進行するのですが、ラズミを最速キャラと並べると攻撃回数が1/5ぐらいなのが如実にわかります。一発は重いけど体力も低いので、ジャスガができないとすぐ落ちます。

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 ラズミの感性は、明るく活発な主人公アジュナとは正反対に暗くてジメジメした話題を好み、善人らしい物言いは滅多にしません。いわゆるコメディリリーフ、しょうもない茶々を挿し込んで会話をほぐす役なのですが、素がダウナーなので臭みが少ないですし、ふざけにくい場面でも負の領域にズバズバ切り込む働きで通用します。
 仲良しムードを腐したがってるケもあるけど、そもそも性分に合った(陰気で天の邪鬼な)見方に立って思うままを言っているだけなんだろうし、英雄の一角がそんなやつでもいいんだなと親近感が湧きました。


性急さの報い
 昨今まことしやかに噂される所の俺強ファンタジー、選ばれし者がお茶の子さいさいで解決してしまう展開が、一度盛大に挫かれます。まあそれでなくとも「はいはいまた俺強ね」とかおやすみからおはようまで言ってる連中は自分の楽しめなさを理屈で補強してまで他人の楽しみを台無しにしたい性根の××××った××××野郎だし、この×××××と×××××××××××××××××
 主人公アジュナもどちらかというと生まれついての強者ではあります。出自は密かに特別で、謎めいた技能を持ち、あふれる理力で否応なしに強者の目を惹き、ブチギレると鬼神に変身します。向こう見ずでも上手く運んじゃう場面は多く、それはそれで痛快ですが、とうとう手痛いしっぺ返しを食い、なまじ「できてしまう」穴に嵌る時が来ます。四の五の考えずにうまくやってこれた(言ってしまえばゲームという箱庭構造に甘えられる)人物なりにも、立ち止まって頭を冷やさないといけない状況の訪れはありえ、本作でもそこを一つの転換軸としています。行いと苦悩とを無縁にできるという意味での選ばれた人間はいません。俺もよくよく嫉妬深いので、そう祈っています。
 他にも、「とりあえず飛び降りたが普通に死ぬところだった」「お酒を飲み慣れた年齢のキャラと飲めない年齢のキャラで意見が割れる」「町が滅ぼされた余波で難民キャンプが形成される」「死病を治すクエストで周縁者も診る」「ラスボス放っぽってサブクエ回収しててもいい理由」など、ややシニカルなリアリティラインのくすぐりがちょこちょこ入ります。


アジアンファンタジー
 インド、アラビア、ペルシャ、チベット、タイや中華、そして習合的仏教思想を主な基調とし、古典的ファンタジー観の大胆な翻案がなされています。あとアジア圏からは遠いですが古代アステカも出ます。ヨーロッパは露骨に侵略的異文明としての登場になります。
 例えばセーブポイントは供花と線香の仏壇で、セーブ音はパイプオルガンや聖歌ではなくディレイラマみたいな低い濁声(ググった限りでは声明(しょうみょう)と呼ばれるそうです)、聖地はお袈裟の賢人が守っている訳です。戦士職はインド王族だし、ヒーラーは東洋薬学者や恵みの水のジン。多くの禍根を残しながら満たされず死んだ者は餓鬼道に生まれ変わらされます。徹底したものです。
 ステロタイプからはみ出た(要するに「剣と魔法の中世ヨーロッパ」以外の)国際色を濃密に取り入れたファンタジー風景の中を、童話的な少年少女が暴れ回るのは、聖剣伝説2・3が思い出されます。あれもブードゥー文脈のゾンビとか、黄金都市とか、人狼部族とか、ケチャをバックに襲いかかるネクロマンサーとか、樹木信仰とか、変な武器(投げ槍やムチ)で戦える主人公とか、大概俺の好みの発端になっています。あと単純に音楽担当が菊田裕樹です。

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何の前触れもなく電柱にマニ車発電機が付いてる様子

 一方でどことなく小ぢんまりしていて、すぐ星とか宇宙とかの飛び道具を持ち出さない地に足付いた感じは、ファントムブレイブやFFXIIが思い出されます。「世界の危機」とはよく言いますものの、足で歩ける範囲の、人々の地道な暮らしぶりの連続性から立ち現れるものだって世界なんですよね。プレイヤーすなわち部外者目線ではたかが一地域の動向も、住人たちにしてみれば明日を左右する一大事な訳ですし。民話における(航空機も衛星写真もGPSも存在せず、山や海が立ちはだかり、平たかったり大魚や巨人やトネリコに依って立っていた)「世界」っぽいですよね。
 つまり物語スケールとは独立に雄大さや緊密さを持たせることも、手法や熱量によりけりで可能なのだと思うんです。ゲームとしては2D横スクロールだからこそ、画面にも手がかかっている。舞台背景として通り過ぎてしまう自然や遺跡や町並みが、いかに奥行き方向に執拗か。進行に影響しない町人に名前と固有グラがあり、話しかけられない汎用モブに至るまでことごとくアニメーションしてるのは、相当ヤバく感じました。なんかまあ、俺の認識が古すぎるだけかもしれませんが。


いうてもクリアしてない
 かくも知ったかぶりましたが俺はまだ物語の行き着く先を目撃していません。続報を待て。ないから待つな。君の目で確かめてくれ。
 要するに、久しぶりにRPGをやったら異常なほど楽しかった話です。現場からは異常です。

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