msdyrnn 韻 思い付き 随時更新

猪狩・・・怒り 終始頭のあったかい人々に対してキレてばっかだったし、最終回甘美な妄想に侵された窮地においても逆ギレのパワーで打開したから。都合のいい妄想の反復をぶん殴って、辛い現実へ帰れる人間。俺ら。不本意であっても認めざるをえない事実に関しては腹を決め、でもムカつくもんはムカつくんだから一発ぶん殴ってやらあ、という身勝手でタフな怒り。

鷺・・・ウサギ/詐欺 月の影でウサギがピョン。名前の動物が鷺だという所から既に欺き。根も葉もない言説を生む職能がある。それは状況によって支えにもなれば重荷にもなる。この作品自体、というかあまねく作品は妄想の具現なんだし。どんな作品にも大なり小なり含まれる都合のよさというものが、時にやりきれない事実を乗り越える為の励ましにもなれば、どん底からでも遅くない努力や模索のステップを軽んずる言い訳にもなりうる。タイトルが広告代理店のもじりなのも、なんかそういう感じ。

馬庭・・・マニア 電波マニア。電波と伝播もかかってる。毒電波で妄想が伝播。ゆんゆーん。他人の妄想の収集家。妄想代理人という作品を俯瞰して楽しむ人間。俺ら。病んで白髪になり、老いて一話に戻り、折り返しの七話で周回して得た情報を次の新しい馬庭へと伝達する。他者へ理解を示すこと、解釈を加えることが行きすぎるとどうなるのかを体現した反面教師。裏返せばこの作品を観続けて、果てしなく共感を深め続けてほしいと言う誘惑のメッセンジャー。

マロミ・・・丸まる 休息。マロミまどろみ、とは丸まって眠ること。ED映像はその俯瞰。個個人は胎児のように目を瞑る。受容した人々全体ではマロミを取り巻く円となる。唯一馬庭だけは何の安寧もない妄想に取り憑かれて輪を逸脱し、妄想の連鎖の発端である月子の前で視聴者に向かって折れ曲がっている(馬庭の末路そのものは紛うことなき狂人であるが、これによって妄想代理人というアニメの終わりは疑問符に変形する)。またマロミの黒々と見開かれた眼は金環月食を思わせ、「休みなよー」と闘争心を塗りつぶしにかかる影であり、あるいは少年バットのデザインに光る白い歯・金属バット・金のローラースケート靴などと共犯的に対を成す陰の部分。そして、幼い月子の面前で永遠に目を伏せる事となった本物のマロミ像に、純心ゆえに糊塗された侮辱である。少年バットも同様で、マロミの命の責任を歪めて相対化してしまった産物。死者に報いることがその死に惹かれた閉塞を振り撒くことであってはならないし、ただ思考停止して休むだけでは己の失態と向き合うことからは程遠い。幻想のマロミも、結局は月子自身の設定した宿敵少年バットに張り裂かれて滅び、月子は過去と向き合わざるを得なくなった。

少年バットの勝ち負け・・・少年バットはどこにでも現れどんな心身ダメージも叶えてくれる、都合のいい加害者、正念場。 マロミのキャラクターが労りの皮を被って忍び寄ってくる自己弁護だったように、少年バットは噂の通り魔の姿を取った安易な救済、言い訳製造機である。8話の幽霊トリオと美佐江には負けている。幽霊には影がない。老いも死も、恐れる暗部を永遠に捨て去った底抜けに明るい存在を、殴り倒すことはできない。そもそも彼らは少年バットの力を借りずとも内輪の結束だけで自殺を完遂しており、今さら少年バットに叶えてもらうこともなかったくらい死ぬ気も算段も本物だったので、ある意味で元から強い。美佐江は真っ向勝負で打ち勝つ強さを見せた。が、それは警官時代の猪狩に叱り付けられた際に生まれた芽を、闘病生活の中で妄執的に育ててきたもので、決して圧が強いだけの人物でもないと思うし、結構精神的な弱さや倒錯した夫婦愛など帯びつつも夫を慕って頑張ってきた、苦心の果ての境地だと思う。あるいは彼女も幽霊同様死に密接した危うい位置におり、現実逃避する余裕さえない人間には少年バットの付け入る隙もない。反対に狐塚のように、心を折られて刹那的に死に安寧を見ているような人間のことは、少年バットは殴るどころか容赦なく殺す。馬庭が負けたのはよくわからない。あの時点でも妄想100%で怖いものなしだったと思うが、第四の壁が妄想でも乗り越えられない恐怖として残っていたのだろうか。または猪狩がマロミを打ち破ったのを見るに、少年バットを呼び込む不安が全くなければいいという話でもなく、現実を痛感しつつも直視し居直るプロセスを行えないと、つまり妄想だけが武器では妄想にすら勝てないという所だろうか。

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