まともな人が誰一人出てこない話

私が5才だった頃、保育園で同じ組の男の子が交通事故死した時の話。

保育園から帰ってきて2時間くらいしたとき元親父が突然
「あんたと同じクラスの子、交通事故で死んだって聞いてないか!?」
突然何を言い出すんだこの親父は?と子供心に
思ったがそんな話は知らないので
「知らない」
と言った。
「さっき国道で保育園児が大型トラックに跳ねられたと騒ぎになってた！あんた聞いてない？」
私はその日は保育所から帰ってからは家から出てないし、とにかく知らない。
私が知らない事に元親父は子供だった私から見てもイライラしていた。

それから元親父は外出。パチンコにでも行ったのだろう、と思った。

それからまた1時間くらいたった時。
ピアノの練習をしていたら元親父が練習部屋にいきなり入ってきた。

「やっぱりさっき騒ぎになってたトラックにひかれた子、●●君(同級の名前)だって！あんた友達?」

とヘラヘラ笑いながら私に伝えた。

どうやら元親父、外出してご近所に聞きまわっていたようだ。

私はその子は特に仲がいい訳でもなく悪い訳でもなく、まあ3日前にちょっと話したくらい、という内容を元親父に子供なりに伝えたら、なぜか元親父は不満そうだった。
すると今度はこう言った。

「相手が大型トラックだから、その子ぐちゃぐちゃだって。トラックのタイヤに云々(以下ご遺体の状況をこと細かに説明。一言一句全て覚えているが自重します)。明日あんた葬式出るんかね」


おいちょっと待て。普通子供にそこまで言うか?と子供心に思った。

そして翌日葬儀参列。
ただ外のテント内にお焼香する所が設置されて
私たち園児はそこでお線香をあげた。
仲が良かった子や泣いている子もいたしショックを受けている子もいた。

私自身は自分の表情がどうなっていたか知らないが
「子供でも死ぬんだな。トラック怖。気を付けよう。でももっと話しとけば良かったな」みたいな事を考えていた。するとSという女子が

「豆太郎ちゃん、泣いてない?●●君の事好きだったのお～?先生もさっきあいさつで泣いてた～」


とニコニコで言ってきた。何なんだこいつは。葬式でヘラヘラ笑ってはいかんだろうが。
私は今の言葉で言うと「引いた」。

余談だがこのS、中学校卒業まで同じ学校だったが、どうしてもこの出来事が頭から離れずSの事が受け付けなくなり避けていた。
「豆太郎ちゃん、なんでSさんと話さないの?」
と言われた事も何度かあるが、説明してもわかる奴は地元には間違いなくいない←土地柄。

「なんなのそれくらいの事でSさんと話さないなんて。子供だったから死ぬってことがわからなかったんじゃない?」と言われるのがオチである。
一度、友人に言ったがやはりそう言われた。


そして帰宅後、元親父は嬉々として

「葬儀どうだった！?(家の)中入った?」

と聞いてきた。

私は
「外だったよ」

元親父は
「なんだ、じゃあ中(棺)も見てないね。まあ見せないか…」
とガッカリそうに言った。

この元親父は「自分が一番知っている」という事が重要で、
事件や事故も関係者から話を聞きまくる。
そして
「自分はこの事件(事故)の被害者の知り合いで、この件に詳しい。聞いた話だと云々」
とあちこちで言いふらす。
そして被害者が可哀想、と同情しまくるふりをし「いい人」と話した人に思わせることも忘れない。

しかし普通、自分の子供の同級生が亡くなったらショックなんじゃないか?
私には子供がいないが、甥っ子と同い年の子供が事件や事故にあったと聞くと、やっぱり色々(心配＆気の毒に…もしうちだったら、みたいな)考えるぞ。




よく
「そんな昔の事よく覚えてますね。なんか信じられない」
と言われるが、なかなかキョーレツで忘れられないだけである。