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ボクの闘病記 #2


最近のボクの視界は、布団の中が全てになった。天井ばかり見ていても虚しくて、それならば布団の中に潜って、何も見えない世界で空想を繰り広げる方が幾らか心が安らぐ。

今ボクの居る部屋は窓にピンクのカーテンがかかっていて、その淡い色のせいで西日を上手く避けてはくれないけれど、羽毛布団のカバーのおかげでボクはその眩しさから逃げることが出来ている。

今日、ボクは夢を見た。大好きな人がそばに居た。

ボクの病気の事情を詳しく知るものは、両親以外居ない。兄弟も、親戚も、仕事仲間や恋人だって知らない。知られているのは、何となく調子がつかないことくらいだ。

ボクは以前から調子がつかなくなりがちだったのだが、最近のそれは他人の知る過去のものとは違うことを感じている。その結果として、外には出られなくなった。

最近、雪が続いているらしい。ボクはずっと同じ部屋に居て、テレビも見なければ携帯も開かない生活をしているのでそれすらも知らなかったが、そういえば朝晩に息をすると白く煙る。

病気によって失ったものは日常生活という大きな括りでは存在するが、このご時世そう大きなものはないと感じているのは幸いか。

過去に詰め込んでいた健康な頃のスケジュールは、今はほとんど延期か中止。会いたい人にも会えない時期なので、妄想に耽る時間が一番幸せだ。

今まで楽しかったものが何であったか忘れてしまったり、思い出して試してみても全く心に響かなかったりすることが多々あるのは、服薬のせいにしておこう。とにかく今は大きな音がとても恐怖である。

睡眠かどうかもよくわからない浅い睡眠の中で繰り広げられる非日常の物語を、少しの暇つぶし妄想材料にするのにもすっかり慣れてきた。

闘病していても、食事は制限なく摂ることが出来る。ただ、今朝食べたとある有名店の生食パンにいつもの美味しさを感じられなかったのはやはり少し悲しかった。

あと、ボクは夢の中で何度も失敗を繰り返す。あと一歩であの子に近づけそうなのに、どうしても声が出なくて目が覚める。この失敗、現実では許されない。

今日も仕事仲間からメールが数件届いていた。恋人にはいつものように、仕事が忙しいふりをしてそっけない定型文や挨拶のようなメールしか返していない。

ボク、明日はきっと晴れると思うんだ。いつものように、外を駆け回れると思うんだ。病院から、「誤診でした」と連絡が来て、不安も薬も全部捨てて、また前みたいに生きていけるようになるとしか思考が働かないからきっとそうなんだよな。

週末恒例の恋人との電話で、何でもない話をして、元気に満足して次会う約束が出来るようにきっとなるから、ボクは明日も世界をぐるりと駆け回る。


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