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【実話怪談8】もぞもぞ

20代男性Aさんが、関西地方の山奥に佇む旅館に友人らと宿泊したときの話。

長旅を終えて宿の和室に入り、一息つこうとしたとき。Aさんはシャツとジャケットを着用していたが、右腕の肘辺りに、もぞもぞする感触を受けた。その直後に、シャツとジャケットとの間から、それは姿を現した。

ボールペン1本分の長さはあろう、つやつやの光沢を放つ黒色のムカデ。
うねうね、うねうね、と多足を蠢かせながら、手の甲を指先に向かって這っている。

ぎょっとしたAさんは反射的に右手を何度かぶんぶん振り払って、ムカデは畳の上に落下した。

Aさんの挙動を見ていた友人が、どうかした? と尋ねてきた。「いま、ムカデが…」と友人に目を向けて再び畳に目をやると、すでにムカデはどこにもいなかった。目を離したのはほんの1~2秒で、いくら俊敏に動いたとしても、部屋のどこかに隠れるほどの時間はなかったはずだった。

「よく解らない体験でした。この目でムカデを見たし、手を這ってた感触もあったのに」

首をかしげながら、Aさんは語ってくれた。

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なお、同行した友人の1人は「ムカデは縁起いいから良かったじゃん」と助言してくれたそうだ。

Wikipediaには、ムカデに関して次のことが記載されている。

・闘いの神・毘沙門天の使いである。
・「ムカデは後退しない」にあやかり、武田信玄は甲冑や旗にムカデの絵を描かせた。
・多足は「客足が増える」の意味で、良好な商売運を表す。

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