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【実話怪談61】行列のできない占い師

20年ほど前、当時20代半ばのTさんは奥さんと東京・原宿にある占いの館を訪れた。館内には数人の占い師が各ブースに分かれて待機しており、客はそれぞれ占ってもらいたい占い師のブースに並ぶシステムだ。

「妻は人気のある占い師に鑑定してもらいたがってたけど、やっぱそういう人って長蛇の列ができてて。俺は並ぶの嫌だったから、空いてるとこでいいじゃんって言って、人が並んでない占い師さがしたの。そしたらひとり、全く行列のない占い師がいたから、そのブースにノックして入ったんだけど」

その占い師は、Tさんいわく〈いかにも占い師〉というような全身黒づくめの中年女性だった。

ブース内に置かれた机の中央には、直径10センチぐらいの水晶玉が鎮座している。どうやらその水晶を使って占うようだ。

占い師に促され、Tさん夫妻は備え付けの椅子に座った。
「よろしくお願いし……」とTさんが挨拶しているのを遮り、その占い師は目を丸くして彼に向かってこう告げた。

「うわぁ。猫いっぱい居るねぇ。あんたの後ろ」

この一言がなにを意味するのか、彼はすぐに理解した。

実はTさんは、捨て猫を拾っては自宅で飼い、最期まで面倒を見ることを小学生の頃からずっと続けていた。

「だから俺、泣きそうになっちゃって。今まで可愛がった猫たちの霊が背後にいるってことだから」

ただ、もしかしたら敵意のある霊なのかもしれないと思った彼は、念のため確認してみた。

「その猫たち、怒ってたりしますか」
「いえ、大丈夫。問題ないわよ」

安堵するとともに、(すげぇな、このおばさん)と彼は感心せざるを得なかった。その後にTさんと奥さんは、あることを鑑定してもらった。

「子宝には、いつごろ恵まれそうですか」

実は当時、Tさん夫妻は自然妊娠が困難な状況で、体外受精も検討していた最中だった。だがそのことは占い師には伝えずに、あえて子供ができる前提でざっくりと質問してみた。

「無理。残念だけど」

即答だった。
断言だった。

「子供がいる未来が見えないの。ごめんね、お金もらっている以上、ハッキリ伝えるのが仕事だから」

申し訳なさそうな表情で、その占い師は付け加えた。

「ハッキリ言ってもらえて、むしろ良かった」と彼は語ってくれた。その占い師の鑑定通り、現在に至るまでTさん夫妻に子供ができることはなかった。

その鑑定から約1年後。
Tさん夫妻はふたたび同じ占いの館を訪れた。
しかし、件の占い師は待機していなかった。店舗内に掲示されていた在籍占い師の写真一覧にも、彼女の写真は見当たらなかった。

「あんなに的中すんのに、なんで行列ができないんだろうね」

Tさんは不思議そうに、首をかしげた。

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