【実話怪談12】山陰の旅館
「修学旅行のときに変なことがあったの」
女性Fさんが、興奮ぎみに話してくれた。
彼女は高校の時、暇さえあればオカルト好きのクラスメイトと『こっくりさん』などに興じていた。それが影響してるかどうかは解らないが、就寝時に金縛りに遭うことが多かったそうである。
そんなFさんが高校の修学旅行で山陰地方の旅館に宿泊したときの話。
割り当てられた部屋は、年季の入った和室である。
その日は大雨が降っていた。
Fさんらが夕食を終えて部屋に戻ってみると、閉まっていたはずの窓が全開になっている。大量の雨粒が部屋の中に注がれていた。
雨なのに誰かが開けるとも考えにくく、何かの拍子で開いちゃった、くらいに彼女は考えていた。
その晩、『こっくりさん』メンバーの数人の友人と怪談話に興じていたとき。
部屋の電気が、ぷつん、と急に落ちた。
しばらくして明かりは復帰した。このときも、まあ古い旅館だし、こんなこともあるよね、くらいに思っていた。
そして就寝。
「寝ていると、不意に目が覚めて。ぞくっとする厭(いや)な気配を感じたの。隣で寝ていた子も目が覚めたみたいで、同じように何かに怯えた様子で」
暗がりのなか、横に臥した状態のまま、ふと押入れに目を向ける。
閉まっていたはずの襖(ふすま)が、全開になっていた。なんで襖が開いてるんだろう、と訝しんだ次の瞬間。
その襖が、すすっ、すすっ、すすっ、と、左から右へ移動して閉じていった。
「襖が勝手に動いて閉まっていってね。人が普通に襖を閉める速度で。ギョっとしたけど声が出ず、でも目が離せなくて。隣の子も一緒に見てたから、見間違いじゃないと思う」
襖が完全に閉じた後。
Fさんはようやく悲鳴を射出し、跳ね起き、部屋から飛び出て引率教員に助けを求めた。
部屋に駆けつけた教員が速やかに盛り塩を設置すると、その後は何事もなく夜が明けた。
後から判明したことだが、その旅館は不可思議な現象が生じる場所として周知であり、引率の教員らは知っていたそうである。
「それ以来、なぜか金縛りに遭わなくなったの」
不思議そうな表情で、Fさんは話し終えた。
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