【実話怪談39】父親の痣
実話怪談37~40は、すべて女性Lさんに伺った話である。各エピソードは独立している。
Lさんの父親が50歳のとき、彼の母親(Lさんの祖母)が他界した。
その翌朝。
彼は顔を洗おうとして洗面台に立って、水道の蛇口をひねり、水を両手で掬おうとしたときだ。
自分の左腕を見て、ぎょっとした。
左腕の内側に、大きな赤黒い痣(あざ)が浮き出ている。
その痣は、等間隔で3つ現れていた。
痣は細い線状で、それぞれが片仮名の文字に見える。
文字は、太さ1~1.5ミリ程度、一文字の大きさは、3センチぐらいで、それぞれの文字の間は1センチほど離れている。文字の向きは、手首から肘にかけて縦書きの向きだった。
一文字目が、手首の近く。その文字は「ヒ」。
二文字目が、肘と手首の間。その文字は「サ」。
三文字目が、肘の近く。その文字は「ヨ」。
「ヒサヨ」。母親の名前だった。
なんとなく文字に見える、というレベルではなく、くっきりと浮かびあがっていた。
そしてその文字は、母親の筆跡だった。
痛みは全く感じなかったという。寝ている間に痣が形成されたと思われるが、就寝中に異変を感じて目が覚めることもなかった。
痣なので、洗ったり擦ったりしても消えない。時間が経つにつれて薄くなっていき、3日間ほど経つと完全に消えた。
Lさんの父親は6人兄弟の末っ子で、母親から最も可愛がられていたらしい。
名前の痣が現れたのは、彼だけだったという。
「どんな手段で痣を残したのか全く解らないが、母の愛情が痣の文字として現れたのではないか」と父親は解釈している。
Lさんもその痣を見ている。最初に見たときは愛情を感じる以前に、ゾっとしたそうだ。
※プライバシー保護のため痣の文字名は変えてますが、片仮名で三文字というのは事実です。
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