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【実話怪談31】怪火

「一度だけ、火の玉を見たことありますよ。部屋の中で」

今から約30年前、営業マンのUさんが小学6年のころの話だそうだ。
彼は三人兄弟の長男で、夜はいつも三段ベッドの最上段を陣取って寝ていた。

ある夜(季節は憶えてないとのこと)、寝ていたUさんは、ぱちりと目が覚めた。深夜、時間は不明である。瞼は開いているのだが、身体が動かない。人生で初めての金縛りだった。そして真っ暗な室内で、横向きで寝ていた彼の視線の先に、それが見えた。

「ちょうど、三段ベッドの最上段で横になっている僕の目線の高さで、部屋の中に火の玉っぽいものが浮かんでました。大きさは野球のボールぐらいです。数は確か2つで、それぞれ赤黄色と白色で、宙で燃えてるような感じでした。どのくらいの間、見続けたかですか? それがよく覚えてなくて。時間の認識が歪むというか、不思議な感覚で。いつの間にか眠ってて、起きたら朝になってて普通に動けました」

翌朝、Uさんは昨晩の火の玉の件を家族に話した。すぐに信じてもらえるとは思わない。だが、初の金縛りと初の火の玉のダブルパンチである。強烈な初体験の興奮を伝えずにはいられなかった。
同じ三段ベッドの中段・下段で寝ていた弟らは何も見てないし、金縛りにも遭ってないという。

この話を聴いた両親の対応は、意外なものだった。すぐに彼を連れて最寄りの神社に赴き、助言を乞うたそうだ。そこの神主に、こう告げられた。

「今日からお風呂に入る前、お湯を浴槽いっぱいに張ってください。それに肩まで浸かったら、すぐに浴槽から出てかまいません。これを、3日間続けてください」

特に身体に異変はないものの、両親や神主の対応から、Uさんは自分が良からぬ状況に陥っているのを悟った。

そしてその日から、神主の言いつけを守って入浴した。湯を満杯まで貯めた状態で浴槽に入る。どばどばと溢れ出る湯水を眺めながら、こんな対処で大丈夫なのか……と彼は不安に駆られる。それでも割り切って3日間、「満杯入浴」を実行した。

この入浴法が功を奏したのかは解らないが、その後は火の玉を見ることもなく、身体に異変が生じることもなかったそうだ。

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