【実話怪談22】短期と長期
どん、どんッ。
将寿さんが中学二年のときの夏休み。夜一時半ごろに自宅二階の自室で寝転がってテレビ番組に興じていたとき、部屋の窓を叩く音が聞こえた気がした。
ここは二階。ベランダもない。聞き違いだろ。そう思い直し、再びテレビに目を向ける。
どん、どんッ。
また、同じ音だ。
明らかに、人間の握り拳で意図的に窓を叩く音である。ノックの強さではなく、拳全体で強めに叩いているのが伝わってきた。
彼は戦慄した。テレビの音声が耳に入ってこない。そして。
どん、どんッ。
三度目の音。背中に氷が貼り付いたかのようにゾクリとした。できるだけ物音を立てないように、そろりと部屋を出て階段をひたひたと降りていった。
一階で寝ていた父親を揺り起こし、懐中電灯で照らしながら家屋二階の窓、屋根付近を調べてもらった。だが、怪しい人影も形跡も見当たらない。結局その夜はもう何も起こらなかった。
翌朝。隣家に住む祖母が自宅に訪ねてきた。
「Aさんが亡くなられたよ。今日」
Aさんとは、将寿さんの遠縁の親戚にあたる高齢女性である。近所に住んでおり、将寿さんが五歳くらいまでよく遊んでもらったそうだ。
「祖母の話によれば、Aさんが亡くなった時刻は、窓を叩かれた時間とほぼ一致していたんです」
祖母と父親は葬儀に参列したが、遠縁ということもあって将寿さんは出席しなかった。
葬式後。Aさんが深夜にそろそろ就寝しようかという時。
ちぃぃぃん。
金属とおぼしき反響音が、部屋の中に響きわたった。
「お鈴の音でした。線香をあげるときに使う、仏具のお鈴です。自分の部屋にお鈴なんて置いてないですよ。でも、部屋のどこかから鳴ってるというのが感覚的に解るんです」
その夜は、恐怖で寝付くことができなかった。
翌日の夜も、翌々日の夜も、お鈴の音が鳴る。音が鳴る回数は、一日一回だったそうだ。音が鳴る時間帯は、深夜一時~二時ごろ。お鈴の音は、ほぼ一ヵ月もの間、毎晩鳴り続けた。
「最初は怖かったです。だけど次第に慣れてきました。あ、今夜も鳴ってる、くらいな感覚で」
そしてある晩から、ぴたりと音が鳴り止んだ。
一連の出来事をまとめると、一晩数回の窓を叩く音と、およそ三十日間(毎晩一回)続いたお鈴の音という短期と長期の現象の組み合わせである。
「中学生の自分には刺激が強かったですね」
十五年経った今でも、将寿さんは父親とこの話をするそうだ。
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