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【リレー脚本】SPIRAL HERO~螺旋階段で踵を鳴らせ~(後編)

SPIRAL HERO~螺旋階段で踵を鳴らせ~(前編)の続き。

後編(大島)

【シーン2】

悪い人が階段の頂上で天蓋を眺めている

悪い人「全ては準備…私の目的は唯一なのだ!天蓋の崩壊、ごった共の魂魄解放、公女クセルクルス・ルナ・アクタルのヴィア・ドロローサ、「重い」の連鎖も何もかも!全ては準備だ!さぁ…全てを終わらせよう。この素晴らしく腐った鉄の時代を!英雄は語られる存在でなくてはならない!英雄は!英雄譚へと成り果てるのだ!!」
     
ヒロイン、意識が朦朧としている。それでも階段を登り続け、ふと昔を思い出す。

ヒロイン「彼に救われた時の事を今でも思い出す。私は彼を、酷く脆い人だと思った。そう、人。世間からは『ヒーロー』『英雄』と称讃され、今や『化物だ!』『怪物だ!』と恐れ臆される彼は、紛れもない一人の人間だった。世間は新しい価値観を提示する彼が邪魔であり、異端だった。彼はきっと十字架を背負わされて、処刑場まで歩かされるだろう。見せしめのために。十字架を背負うとは、そういうことだから。拭い去ることもできないほどの罪の意識、精神的な苦痛と悲嘆。彼は死ぬまでそれを背負い続ける。誰にも悔やまれることもないまま……………そんなの嫌だ!絶対に嫌だ!彼を、彼を助けないと!どうすれば?彼を救うにはどうすれば!!」

悪い人「ならば、お前が背負えばいい。お前が、キリストとなり階段を登るのだ。」
     
ヒロイン「私が、階段を。登らなければ…彼の為に。階段を…螺旋階段を…」
 
ヒーロー、クセルの元に見参する。

ヒーロー「そうか。守られていたのは俺の方だったのか。クセルクルス。」

ヒロイン「登らなければ。階段を…」

ヒーロー、クセルの十字架を「鎖」によって引き剥がす。クセルは倒れ気を失う。ヒーローは一度、片膝をつくが、それでも立ち上がる。

ヒーロー「すまない。君の覚悟を踏みにじることになる。すまない。俺の身勝手で君に<重り>を背負わせてしまって。お願いだ。誰かの為に死のうとするな。お願いだ。君の覚悟を踏みにじり、一番身勝手で最低な願い……」

『ここで少し、待っていてくれ。』
     
ヒーローは前を向く。

ヒーロー「俺は彼女の盾となる。俺は彼女の槍となる。器械は常に先行を続け、後退などは許されない。ただひたすらに前へ、前へと進むのだ!鳴らせ鳴らせ踵を鳴らせ!歩みを止めるな!恐れは無い!ならば行くぞ、乾坤一擲、勝負の踏面だ!」

ヒーロー、残りの階段を一気に駆け上がる。

【シーン3】

決戦、螺旋階段の頂上。

悪い人「良い旋律だ。まさか音階を使うとは、これまた恐れ入ったよ。随分とヒーローらしくなったじゃないか。だが、知っているぞ。君は既にヒーローとしての力を失っている。そうだろ、ペルシア国の騎士殿。」

ヒーロー「俺は貴様を知らないが。」

悪い人「私はデルフィ・イリアディス。考古学者であり、その筋からは無頼漢などと呼ばれていてね。困った話だよ、全く。」

ヒーロー「そうか。」

悪い人「トロイア戦争の生き残り。」

ヒーロー「…。」

悪い人「時代の残党が動き回られては困るんだ。」

ヒーロー「この<重さ>は貴様の仕業か、イリアディス。」

悪い人「そうだとも。人物というのは、浮かれて沈むんだ。期待をされて舞い上がり、裏切りによって地の底にまで落ち込む。それはもう、立ち直れないほどに。理解は及んでいるようだが。」

ヒーロー「身を持って体験したからな、思い想いの重さってやつを。」

悪い人「想いの鎖は連鎖する。繋がり、そしてそれは君の全てに纏わりつく。底が割れたら終いさ、ヒーロー。」

ヒーロー「彼女が背負っていた重圧に比べれば、この重さなど大したことはない。」

悪い人「ハハハ、素敵だね。まぁ、十字架を背負えなくなった彼女に最早価値などない。」

ヒーロー「お前にとっては、まぁそうだろうな。」

悪い人「ところで一つ聞きたいことがあるんだ。」

ヒーロー「なんだ?」

悪い人「なぜお前はここにいる?なぜ私の前に立っている。立っていられる?」

ヒーロー「なぜとはまた、黒幕らしからぬ発言だぞ。考古学者。」

悪い人「ふっ…見当もつかないね、私は完全に君を封じ込めた気でいたのだから。」

ヒーロー「理由は明白だ。」

悪い人「なんだ。」

ヒーロー「クセルクルス…」

悪い人「ん?」

ヒーロー「クセルクルスはヒロインだ。」

悪い人「…。」

ヒーロー「ヒロインとは足枷であり同時に希望である。」

悪い人「ほう…。」

ヒーロー「彼女は俺の足枷であり、希望だ。彼女、クセルクルス・ルナ・アクタルが枷となり俺は地に足をつくことができる。ヒーローとして立ち上がることができる!」

悪い人「なるほど…ヒロインの為に駆けつけたというわけだ。君は。」

ヒーロー「…。」

悪い人「それで?再び立ち上がったヒーローはこれからどうする?」

ヒーロー「彼女の為…いや違う。俺の為に、お前を討ち滅ぼす!それだけだ!」

悪い人「フッ…フフフ…フハハハハハ!これこそまさに本物のヒーローだ!感慨無量だね!!いいだろう!ならば私も渾身の力を尽くし、君をエリュシオンの果てに送り届けてやろうじゃないか!」

悪い人、番傘を取り出す。

悪い人「もの言わぬ影となり、冥府を彷徨っているがいい。」

ヒーロー「星なんてのは成るものじゃない。見て楽しむのが一番だ。」

悪い人「それは残念極まる。」

ヒーロー「お互い様で。」

両者、踏み出す。悪い人は番傘をヒーローの元へ突き刺そうとする。ヒーローは空手、リーチの差は歴然である。しかし、その刹那、ヒーローの頭の中に言葉がよぎる。

『君の手にした槍には、何が刻んである。』

ヒーローは己の中から槍を取り出す。

ヒーロー「うおぉぉおおおおあああああああああああああああ!!!!!!」

槍は悪い人の脇腹に刺さる。番傘はヒーローへは届かない。それと同時に悪い人の背後には、巨大な十字架が現れ、それを見る悪い人。

悪い人「ハハハ…ハハハハ!そうかそうだったのか!!私が!私こそがキリストだったのか!伝わるぞ…十字架の「重み」が…感じるぞ…人々の恨み憎しみ叫び何もかも!!螺旋の果てはまだ見ぬ彼方…これで全てが終わる。漸く…漸くだ…」

ヒーロー「…。」

悪い人「私の…負けのようだな、全く…予想の範疇外だ…君は。最高に、悔しいよ……そして感謝する…Knight of lady。」

ヒーロー「全て終わったよ、デルフィ・イリアディス。」

悪い人「奇想天外より落つ。実に…素晴らしい…結末だった。」

同時に天蓋を覆い尽くしていた無数の星々が弾け螺旋階段が崩壊する。
ヒーロー、ヒロインの元へ行き、彼女を抱きかかえたままそこから落ちてゆく。

【シーン4】

ヒーローがピアノの上に落ちる。ピアノの横にはランバージャックがたたずんでいる。

ランバー「君はどうしてそういつも、どこかしらから落ちてくるんだい。」

ヒーロー「…。」

ランバー「林檎を見つめるニュートンの気分だ。」

ヒーロー「なぜだろう。」

ランバー「なぜだろう。」

ヒーロー「だが、悪くない。」

ヒーローの腕の中で眠るヒロインを見る。

ヒーロー「落ちながら感じることができたんだ。人の思いってやつを。」

ランバー「人の思いか。」

ヒーロー「あぁ。様々な人の思い。」

ランバー「君はこれからどうするんだい?Knight of lady。」

ヒーロー「英雄の時代は終わった。何も考えてないさ。」

ランバー「始まったんだろ?」

ヒーロー「それもそうか。とりあえずは…」

ヒロインが目覚める。

ヒーロー「彼女に謝るところから始めるとしよう。」

END


前編はこちら。
SPIRAL HERO~螺旋階段で踵を鳴らせ~(前編)


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