夏の小径
まうじき枯れるだらう
夏の小径をひとり歩いてゐた
小石、エノコログサ、飛蝗
ねつとりとした熱気を孕んで
足許に絡みつくこれらは
静かに終はりを待つてゐる
最高の瞬間といふのは いつも
過ぎ去つてから気づくやうに
彼らが絶えて
足許が涼しさを覚えるころ
激情のやうな寂寥をもたらす
まうじき枯れるだらう
夏の小径をひとり歩いてゐた
がさがさとノラ猫が叢から
ちとちとと雀が木末から
遅刻した生徒を見るやうな目で
好奇と軽蔑と嘲笑の瞬きが
夏の最後の光を返して睨む
場違いな私からは
泡立つ炭酸のやうに汗が噴き
張り付く衣服の気持ち悪さが
そのままこの場の拒絶にも似て
昏倒のやうな陽光が身を射す
まうじき枯れるだらう
夏の小径は過ぎ去つてゆく
蝉の聲はまう絶えてゐた
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