見出し画像

第十話 奈良・ならまち(前編)|ドリアン助川「寂しさから290円儲ける方法」

ドリアン助川さんによる、一風変わった「旅」の短編小説連載。
日本中(あるいは世界中?)の孤独な人、苦悩している人に会いに行き、何か一品料理を作ってあげながら人生相談に乗る男の物語。290円は何を意味するのか……? ちょっと不思議な感覚の、旅する「おたすけ料理」小説。
月1回更新予定です。


 奈良にいます。
 名勝、猿沢池のほとり。
 ベンチに座ると、池を隔てて堂々たる木造建造物が目に入ります。世界遺産、興福寺の五重塔です。
 秋晴れの午後、わずかに白雲が浮かぶだけの圧倒的な青空です。水面そのものが喜んでいるかのように池が煌めいています。鮮やかな緑の葉を風にそよがせ、周囲の柳も嬉々とした表情を見せています。
 ああ、ここで一人のんびりできたら、心身ともにどれだけ解放されるでしょう。五重塔が建立された奈良時代の人々の姿を想像してみるのもよし、ときどき現れる鹿たちに鹿煎餅をあげてくつろぐのもよしです。
 しかし、私が腰かけたベンチにはお相手がいました。悩みを溜めこみ、これから先どう生きていけばいいのかわからないと頭を抱える中年男性、「おはぎさん」です。私もまた、彼とどう接したらよいのかわからなくなり、今日は敗北の可能性があると思いながらベンチに座っていたのです。
 彼と会うことになったのは、こんなメールをもらったからです。


この話が読めるのはこちら↓

\書籍化決定!/
2023年5月23日(火)発売
寂しさから290円儲ける方法』ドリアン助川/著



ドリアン助川
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家等を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説はフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞」の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。2023年、フランス語版『あん』がリヨン大学より「翻訳作品賞」を授与される。


※この連載を第一話からまとめて読みたい方はこちら↓




旅ブックスMAGAZINEには「寂しさから290円儲ける方法」以外にも旅に関する連載記事やコラムが充実!毎週月・木曜日に記事を公開しています。
フォローをよろしくお願いいたします!!