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第九話 イーハトーブ(後編)|ドリアン助川「寂しさから290円儲ける方法」

ドリアン助川さんによる、一風変わった「旅」の短編小説連載。
日本中(あるいは世界中?)の孤独な人、苦悩している人に会いに行き、何か一品料理を作ってあげながら人生相談に乗る男の物語。290円は何を意味するのか……? ちょっと不思議な感覚の、旅する「おたすけ料理」小説。
月1回更新予定です。


 ハートつきのオブジェ?
 いや、驚きました。私がまだ若く、この地を幾度か訪れた頃は、橋を仰ごうとすれば田んぼのあぜ道に入っていくか、石だらけの川原に降りるほかなかったのです。
 私には創作の悩みから、賢治さんを必要とした季節がありました。彼が生まれ育った場所の空気を吸ってみたい、闇夜に向けて走っていく銀河鉄道を見てみたいと素朴に思った日々があったのです。
 それが三十年以上も前のこと。ただ、私のなかでは、すべてがついこの間のことのように思い出されるのです。ですから、川原の横に宮守川橋梁を眺められる芝生の公園ができていて、『恋人たちの聖地』と刻まれた透明なアクリルボードが立っているなんて思いもよらなかったのです。



この話が読めるのはこちら↓

\書籍化決定!/
2023年5月23日(火)発売
寂しさから290円儲ける方法』ドリアン助川/著




ドリアン助川
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家等を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説はフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞」の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。2023年、フランス語版『あん』がリヨン大学より「翻訳作品賞」を授与される。


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