
第29橋 伊勢大橋(三重県) |吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」
「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!
架け替え進行中!
15連アーチの巨大な鉄橋
もうすぐなくなってしまうと聞いて、いまのうちに行くしかないと思った。見納めであり、渡り納めでもある。長良川と揖斐川を横断する伊勢大橋。戦前に作られた巨大なアーチ鉄橋は、架け替え工事が進んでいる。
伊勢大橋が位置するのは、桑名市の国道1号線だ。何年か前に、家族で名古屋市内にプチ移住していたことがあって、そのときはこのあたりにちょくちょく遊びに来たことを思い出す。近くにある「なばなの里」のイルミネーションが美しかった。
当時はもっぱら車で来ていたが、今回は電車での訪問だ。名古屋駅からは長島駅までJRで約25分。近鉄長島駅も隣接しており、名古屋からは近鉄で来る手もある。いずれにぜよ、名古屋近郊に住んでいる人なら手軽な距離といえるだろう。
長島駅から、伊勢大橋を渡りつつ、お隣の桑名駅まで歩いていくプランを立てていた。グーグルマップで検索すると、徒歩だと約1時間かかるようだった。
1時間も歩くとはいえ、このルートは途中に橋のほかにも色々と見どころがある。
長島駅を出発して、まず最初に到着したのが伊勢長島城跡だった。もとは長島一向一揆の拠点だったが、その後織田家の滝川一益や、信長の次男・信雄の居城となった。戦国好きとしては興味がそそられるスポットだ。
ただ、城跡といっても遺構のようなものはほとんど残存せず、現在は長島中部小学校と長島中学校の敷地となっている。唯一、本丸にあったとされる樹齢300年以上のクロマツだけが、学校の校庭で一際強い存在感を放つ。

城跡というか学校を後にして、そのまま西へ進むと長良川にぶつかる。堤防の上からは、お目当ての伊勢大橋の雄姿が望めた。青い空に綺麗な弧を描くアーチがはるか遠くまで連続している。
おそろしく長い橋に見えた。アーチはなんと15個も連なるという。橋を渡って中州を超えた先には揖斐川が流れている。2つの大きな河を一気に横断できるとあって、スケールの大きさは想像以上だった。

伊勢大橋の全長は1.1キロ。この連載では数多くの橋を渡ってきたが、最長クラスといえるだろう。渡り始めた時点では、対岸はまだ見えない。一直線に続く道をひたすらまっすぐ進んでいく。
橋の両端に歩道が設けられている。北側の歩道と南側の歩道のどちらを進むかで迷ったが、北側を選んだ。理由は、その方が順光気味だったのと、南側には新しく架かる橋の橋脚がすでに建てられており、いままさに工事中という景色だったからだ。
伊勢大橋が架けられたのは1934年。築100年近い鉄橋は老朽化により、架け替えられることになった。工事の完了時期は未定だが、直に古い方のこの橋は解体されることが決まっている。

北側の歩道は、川の上流方向を眺めながらの渡橋となる。柵が低くて川をドーンと一望できる絶景を眺められるが、強風に煽られたらいささか怖い。
よく見ると、橋のアーチの鋼板などに貫通して穴になっている箇所がある。それらは、戦時中の米軍機による機銃の弾痕なのだという。桑名市は軍需産業の拠点だった。えぐられたような穴が補修されず、当時そのままなのが生々しい。

途中で中州を挟みつつ、長良川からやがて揖斐川へと橋から眺める風景は変化する。桑名へ近づくと、柵が高くなった。安心感は増す一方で、景色が遮られる形となり少し寂しい。
長すぎる橋を渡り切って、いよいよ対岸にたどり着くと、橋の出口付近で渋滞が発生していた。さすがは国道1号線、交通の要衝なのだろう。


車の列を尻目に、南側の土手に出た。すると景色が開けて、伊勢大橋の堂々とした姿をこの目にできた。釣りをしている人の姿が目立つ。橋の写真を撮るなら、なかなかいいアングルといえそうだ。

そのまま川沿いに南下していくと「六華苑」がある。鹿鳴館などの設計で知られるジョサイア・コンドルが手掛けた、和洋折衷の邸宅は国の重要文化財だ。
さすがは六華苑とでもいうべきか。伊勢大橋では旅気分で歩いて渡っているような酔狂な人間は自分以外にまったく見かけなかったが、六華苑は観光客でにぎわっていた。


さらに南下していくと桑名城跡にたどり着いた。徳川四天王の一人・本多忠勝の居城だったところだ。伊勢長島城と違って、こちらはちゃんとお堀に囲まれそれっぽい雰囲気だ。天守台跡には神社があって、七五三で訪れた家族連れが華やかだった。

城跡前の八間通りを西へ進めばゴール地点の桑名駅だ。思いのほか盛りだくさんのお散歩旅となり、正直だいぶ疲れてきていた。するとタイミングのいいことに、駅行きのバスがやってきたので飛び乗ったのだった。

吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。
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