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【彫刻】ギリシア美術とローマ美術のちがい

今回ギリシア美術とローマ美術のちがいを考察するにあたり、ポリュクレイトス作《ドリュフォロス》と、プリマ・ポルタ出土の《アウグストゥス像》とを比較したいと思います。

《ドリュフォロス》前 450~440年頃の作

《アウグストゥス像》前 28/27年以降の作

《ドリュフォロス》はクラシック期彫刻の最高傑作とされており、《アウグストゥス像》は、この《ドリュフォロス》を枠組として採用しています。そのため、ポージングや、威厳ある雰囲気はよく似ていますが、いくつかの相違点も見て取れます。

1. モデル

《ドリュフォロス》は理想の人像ですが、《アウグストゥス像》は初代皇帝アウグストゥスの肖像であり、特定の個人をモデルとしています。

そのため、《アウグストゥス像》においては、《ドリュフォロス》の頭部をアウグストゥスの実際の特徴を捉えるのに必要なだけの改変がなされています。

2. 衣服

《ドリュフォロス》は裸体像ですが、《アウグストゥス像》は胸甲や軍用マントを身にまとっています。

《ドリュフォロス》が裸体であるのは、ギリシアの英雄の像としては自然であり、それ以上に、調和のとれたコントラポストを明示するために不可欠だったのです。

しかしローマでは、アウグストゥスのような伝統を持ち、礼儀と節制を重んじるローマ人としては、それは不適切であると考えられたのでしょう。そのため着衣に変えられたのですが、胸甲が身体に密着して表されているため、品位を保ちつつトルソのモデリングも明瞭です。

3. ポーズ

《ドリュフォロス》は虚を見つめていますが、焦点と方向性を持ちません。しかし、ローマ皇帝においてそれは不適切とみなされ、ポーズの改変がなされました。

《アウグストゥス像》は、頭を上げ、やや横を向いて前方と外界とに視線を送り、右腕を上げて命令する姿をとっています。こうして、皇帝としての、支配する者としての威厳が表されているのです。

4. 側面/背面

《ドリュフォロス》のそれぞれの側面観には、独自の調和と明晰さが備わっています。腕や脚の、伸ばされたり曲げられたりした様子がうまく呼応しています。

それに対して、《アウグストゥス像》はそれほど細部は考慮されていません。背面においては、最終の仕上げもないままです。これは、ローマ彫刻がしばしばそうであったように、この立像は壁を背にして置かれ、従って表現の重点が前面に集中しているためです。

まとめ

このように、ギリシア人が抽象と普遍化とを好んだのに対し、ローマ人はギリシア美術の影響を受けつつ、肖像の対象を特定の個人としたため、あらゆる改変が必要になったことがわかります。

ローマ人は肖像彫刻に、特定個人の精緻なイメージを求めたからです。対象を実際よりも美しく、より力強く見えるように作りましたが、その特定性を壊すようなことはありませんでした。

《アウグストゥス像》には、《ドリュフォロス》から受け継いだ自然さ、威厳、外見の必然性を感じるとることができ、また改変の手が加えられたことによって、ローマ初代皇帝にふさわしい肖像が生まれたと言うことができます。


スーザン・ウッドフォード『ギリシア・ローマの美術』(1989)青柳正規・羽田康一訳、岩波書店.

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