腰は大事なのか?

武術研究家のモノノフです。
武道の指導で

「腰を使え!」

とよく言われます。これは正しいのでしょうか?
僕の答えは

合ってるけど、間違っている

です。腰の力は大きいので使うべきですが、皆さんがなんとなく思っているような使い方ではないと思います。要するに「使うのは正しいが、使い方をよく考えましょう。」ということだ。

腰の重要性は昔から武道では言われていました。腰自体が月(にくづき)に要(かなめ)と書くぐらいです。人体の中での重要性は古代の頃から感じられていたのだろう。

僕が考える腰の重要なポイントは2つ

・上半身と下半身を繋いでいる
・大きい筋肉が多く付着している

ところだ。

この辺りは異論は出ないかなと思う。
しかし、ここからは異論が出るだろう。

腰を使わない方が力が出る

のだ。腰を使うとは一般的に腰を回転させていると思う。
力を発揮する場合は

腰ごと体幹を回転させる

ほうが力が出るのだ。腰は上半身の体幹と固定する方が力が出るのだ。上半身の重さに回転モーメントをつけて物理エネルギーにした方が、単純な筋力より物理エネルギーが大きいのだ。そうすることによって、下半身を使って骨盤を回させつつ、その回転の力が上半身につながり、さらには上半身の重さと下半身で発生したエネルギーが合わさり、大きい力になるのだ。

大事なのは

固定の力

だ。一番大きい力が必要なのは全く動いていない状態から、動かす時なのだ。動き出すとそこまでの重さは感じるものではない。イメージとしては車に乗っていると停止状態からの加速に一番ガソリンを使うと思う。

これは

慣性エネルギーが物理エネルギーとして大きい

ことを示している。物理エネルギーはプラス方向であれマイナス方向であれ

加速度が大きい時に大きい力を必要とする

のだ。これは非常に意識しなければならない。これをよくわかっているひとがいる。今生きている中でも達人といっていいひとだと思うが、黒田鉄山というひとがいる。このひとはいくつかの身体操作に関する用語を使っておられる。その中に『等速度運動』というものがある。これが慣性エネルギーの大事さを表している言葉だと思う。

人間は普通に歩いているの波のようなスピード変化をしている。スピードが速くなったり遅くなったりしているのだ。厳密にいうとこのスピード変化が起きるたびに筋肉には余分な緊張が発生している。これをなくすことによって限りなく余分な緊張のない動きをしようというわけだ。言うは易しするは難し。意識はしているが実際僕はできていないと思う。

ちなみに黒田鉄山さんは『順体法』と言う言葉を使っておられたりもして、これは骨盤と上半身を固定した動きだ。あるひとはこの身体の使い方を『なんば歩き』なんて言われたりもする。『なんば歩き』といえば同じ方の手と足が出る歩き方と認識している方も多いと思うが、骨盤と上半身を固定している歩き方で必ずしも同じ手と足が出るというものではない。結果そうなってしまうことが多い身体の使い方ということだ。

さて、腰の使い方についてはわかってもらえただろうか。

腰は回さない方がいい

のだ。固定して使いましょう。腰を回転させて使っていると発生する力が強い分力の歪みが出やすく、痛めやすい。あるひとは「腰が重要だからこそ腰を意識してはいけない」というひともいる。これに関しては納得だ。意識するとそこに力みが発生してしまい、力の歪みが発生してしまう。それを防止しようということだと思う。

昔、僕が伝統空手をしていたころ、隣の剣道場で八段のおじいさん剣士がいた。警察で教えたりもしているようだが、こんなおじいさんに何ができるんだと思っていた。ただ、今でも覚えている立ち姿が異常なのだ。僕はマネキンかなと思ったぐらいだ。息遣いや気配が全く感じられないのだ。今ほど僕は武道や武術について研究している時期ではなかったが、違和感だけは強烈に覚えている。今思うとすごいことだと思う。気配が感じられないのだから。
その剣士が晩年言っていた言葉がある

腰は宇宙だ

僕はまだこの境地には達していない。まだまだ研究の余地があるのだろうと思っている。

モノノフ

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