反芻する

何を置いてきたの?

問の答えはすぐには出てこなかった
帰り道で彼の言葉を反芻する

私は何かを置いてきてしまったのだろうか?
それが戻ってきたらまた前みたい戻れるだろうか。
今私はどうなってしまったんだろうか。

家に帰って気を失うように眠る
夕食の時間になり心配そうに母に声をかけられた
少しの吐き気はあったが多少食べ物が喉を通る心配する母の姿を横目にぼんやりした頭でごめんと言って自室に戻る
そしてまた眠る

夢は見なかった

悪夢にうなされることも無く
ただ時間がながれ
強ばって動けなくなった体を無理やり起こしてお風呂に入る

頭がぼんやりする
今に私がいない感覚
どこにも私がいない感覚

私が置いてきたのは、私、だろうか

どこに置いてきたんだろうか
取り戻せるだろうか
それはどうやって取り戻せばいいんだろうか



私が置いてきたのにはなにか理由があるんじゃないだろうか



いらない家具をたくさん処分した
友達にも引き取ってもらった

今の私に必要なものを選んだはずなんだ


置いてきたものに後悔も未練もない


じゃぁ今
ぽっかり空いてるこの心については
どう説明すればいいだろうか




傷ついた心も一緒に置いてきてしまったんだろうか




遠く離れるということはとても便利なもので
色んなことがその土地のデータベースに
新規保存される

私自身の人生に反映されるものはそこから多少抜粋されたものだけだ

それ以外のほとんどが
期限付きで
その土地で静かに更新されるのを待つことになる



何を置いてきたの?



怖い人が多い場所だった
可哀想な人が多い場所だった

楽しかった思い出とは別に
負け続けた思い出も蘇る
苦しさも
弱さも
虚しさも
空虚にしてしまいたいぐらいに
溢れる感情たち

気を抜いたら死んでしまいそうだった

あの時抱えていた全部が

理屈では語れない

人間というものが何なのかを私に教えてくれた


夢と一緒に
ぶち壊されてしまった心を

そのままあの場所に置いてきたのかもしれない




何も無い
今の私




今まで通り振舞おうとすればするほどエラーがおこる



また一から



リセットする勇気




戻そうとするんじゃなくて



もう一度積みあげよう




心は一生でひとつだけじゃないはずだから



彼の言葉も
家族の言葉も
友人の言葉も


一つ一つ時間をかけて咀嚼し直して


今の私が抱えられるものを



少しずつ積み上げよう




君の言葉を反芻した答えに満たない私の解答





ものくろ