ゴリラ女房

 昔、中学の頃(高校かも知れない)の英語の教科書に、海外の「民話」とされるものが載っていた。細かい部分は曖昧なのだが「グッドラック」とか「ラッキー」の「ラック」という言葉の由来という事で、妖精が白鳥に引かせた「ラック」という船で遊んでいて湖に出たら、そこで蒸気船の音に驚いた白鳥が暴れてラック号は壊れてしまって、そこから幸運をラックと呼ぶようになったとかいう話だった。よくわからないが、民話なのに蒸気船(近代)が出てくる所が新鮮だった。

 日本では民話というと、AUのCMに出ているような、江戸時代以前の人が登場する話という気がする。が、2013年、ツイッターのある妖怪クラスタの中心にいるひょうせんさんという人が探してきた沖縄の本「儀間の民話」には江戸時代以前っぽくないような話が出ていた。
 まるで「サザエさん」や「キテレツ大百科」の、頭のどの部分でひねり出したかわからない奇想天外な回で知られる雪室俊一が考えたようなタイトルで、「ゴリラ女房」という。

 ストーリーは南の島に探検に行った若者がゴリラ達に捕まり、ゴリラとの間に子供ができるが、イカダを作って逃げようとする。ゴリラの女房は若者の前で子供を引き裂く。終わり。

 いやまあ確かに「○○女房」は昔話の定番だ。しかし「ヒヒ女房」とか「猩々女房」ではなく、「ゴリラ女房」なのであった。「昔話」と「ゴリラ」という近代っぽい言葉の組み合わせは興味深い。

 ゴリラはその昔、未確認生物だったと書いてある本がある。19世紀まで西洋人に知られていなかったという。ましてや日本人にはなおさらだろう。しかしそういう諸々を飛び越えて「伝承」があるのが「ゴリラ女房」だった。

 だから、近代以後の冒険譚が下敷きになっているのではないかという話もあった。

 その後「ゴリラの婿入り」や「ゴリラ女王」の話が発掘されるなど、ゴリラ民話界隈は大いに盛り上がった。

 あと、実はかなり昔から中国の野人が人間の雄をさらうという話もあるそうで、琉球と中国は交易があったし、ゴリラ女房話との繋がりもどうなっているのか気になる所だ。

 そして、2020年2月11日、伊集院光がラジオで語った事により、ゴリラ女房はメジャーな存在となってしまった。そうか? また忘れられそうな気がするが。

 いやはや、昔話とか民話というのは、時折、「昔話」や「民話」のふつーに考えた概念をぶち壊してきてくれるものなのかも知れない。
 その中の一つが「ゴリラ女房」に拮抗する破壊力を持っている話が「鳩人間」であるのだが、「鳩人間」についてはまたいずれ書きたいと思う。

 また沖縄の怖い話というと、「仲西」(「仲西ヘーイ」)というのもある。いや、怖いんだかどうだか今一つわからないが、これもまた機会があれば話したいと思う。

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