いとをかし世界
業務委託で仕事をさせてもらっている会社に、バンドマンの社員さんがいる。
今年の4月から新しく入った自分より3つくらい上のOさん。外部の人間の僕がやっている業務を社内で把握している人がいなかったので、別の業務と並行して、僕の業務を共有して把握してもらっている。年上なのにとても腰が低くて、飄々としていて、とてもいい人。
入社してすぐの頃に、リモートツールの僕のプロフィール欄に好きなバンドを書いてあるのを見て「梅野さんcinema staff好きなんですね!珍しい!」と話しかけてくれて、仕事中にcinema staffの話ができる人が現れるなんて夢にも思わなかったからめちゃめちゃ嬉しかった。それから仕事の合間にちょくちょくバンドや音楽の話をするようになった。
Oさんは仕事をしながら15年以上バンドを続けていて、5年前にはレコード会社からアルバムもリリースしていた。YouTubeにはちゃんとしたMVもある。歌声がきれいで、自分の好きな雰囲気の曲で、一緒に飲みに行った時にご本人から直接売ってもらってCDも手に入れた。いつかライブにも行ってみたい。
そんなOさんがいつものミーティングの後にSpotifyのプレイリストのURLを送ってくれた。「梅野さんとは趣味が合いそうだから」と、タイトルに「Recommend」と付いたプレイリスト。
お礼を言って、その後はそのプレイリストを流しながら仕事をした。なんだかどの曲もOさんの曲みたいに聴こえてきておもしろい。どの曲も夕方っぽくて、アンニュイな雰囲気。全然違うボーカルの歌声さえもOさんの歌声に聴こえてきた。
自分の好きな曲が自分の曲になるのだな〜と感じられておもしろかった。曲作りをしているアーティストの方にレコメンドしてもらったのが初めてで、すごく興味深かった。自分が好きな曲を作って、自分が書きたい言葉を合わせて、自分で演奏して、自分の声で歌うなんてどんな気持ちだろう。気持ちよさそうだなと思う。しかもそれを聴いて喜んでくれる人がいたら、嬉しくてたまらない気がする。だから人は曲を作るのか。
聴き終わってから、いても立っても居られず、そのような事と、プレイリストの中で好きだった曲と、一曲ずつ、なぜ好きだったかの感想をがーっと書いて、Oさんにチャットで送った。今日中にやっておきたい急ぎの仕事があったのに体が勝手に動いた。書かずには居られなかった。このエネルギーはどこから来るのだろうと思った。
こういう、ただただ自分が書きたい自己満足の長文を人に送ってしまった時、相手からすると返信に困るよなと思って「返信不要です..笑」
と書いたけど「さすがに嬉しいので!」「また飲みに行きましょう」と、すぐに返信をくれた。嬉しいと言ってもらえて自分も嬉しい気持ちになった。
その後も居ても立っても居られず、自分の好きな曲の中で、夕方っぽくてアンニュイな感じの曲を集めたプレイリストを作りたくなった。というか自分の好きな曲が夕方っぽくてアンニュイな曲ばかりなのだ。
今日中にやらなければならない仕事が..と思ったけど、こういう時は自分の身体が自動的に動くことをやるべきなのだと思い、そのエネルギーに身を任せて、思いつくままにひたすらにプレイリストに曲を追加していった。全部で70曲くらいになってしまった。さすがに多すぎてレコメンドになっていないので、また今度20曲くらいに絞って渡したい。曲の順番にもこだわりたい。
昔からなぜか、こんな風にプレイリストを作ることについて自然とエネルギーが湧いてきて身体が動いてしまう。自分の結婚式や、友人の結婚式の二次会や、そういうイベントごとで雰囲気に合わせた曲を選んだり、誰かと車に乗る予定がある時や家族で車で移動する時でさえ、わざわざ事前にその場面を想像して、その時に相応しい曲を選んでプレイリストを作ってしまう。誰のためでもない、ほぼ自分のための行為だ。
仕事でもなんでもないし、何の役に立つかのかもわからないけどついついやってしまう行為。だけど今回はそれを送る相手がいて、もしかしたらそれを喜んでくれるかもしれない。よく考えると歌を送り合うなんて平安貴族みたいだ。
そんな風に、礼儀とか、忖度とか、気を遣ってとかじゃなくて、ただただ自分のやりたい事や勝手に身体が動くことをやっていたら、結果だれかも嬉しい気持ちになるというのは素敵だなと思う。そういう世界を作りたい!とまで思わないけど、意外と世界はそういうことがけっこうあるもんだなぁと思いながら生きていたいな。
梅野竜一