キッチンドリンカー不在につき
「おまえ、キッチンドリンカーなの?」
「え?」
唐突に向けられた、聞いたことのない言葉に戸惑って、僕は思わず間の抜けた声を上げた。
食欲をそそる音を立てて、フライパンの中で肉に火が通っていく。立ち上る煙が、回した換気扇に吸い込まれていくのをちらりと見やって、フライパンの中身を混ぜる彼に視線を向けた。
彼は火にかけているそれから目を離さず、わずかに荒い手つきで菜箸を操る。
食事をする姿はセックスの暗喩だ、と評されだしたのは、いつ頃からか。ならば、食事の準備をする手つきは、前戯の愛撫のそれか。
料理を覚えて間もない褐色の手が、それでも少しこなれたように動かされている。その手つきを見ている僕に、彼が再度口を開いた。
「だから、キッチンドリンカーなのか、って」
どこか苛立ったように同じ単語を口にする彼に、僕は素直に訊ねることにする。
「『キッチンドリンカー』って、なに?」
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