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【展示予告】陶芸家 Tina Kentner "silence"

2020 年6月 19・20 日、京都・五条にて、京都在住のドイツ人陶芸家 Tina Kentner の初個展 “silence”が開催される。

Tina Kentner は母国ドイツで建築を学んだ後、パリで 15 年に渡り建築家やデザイナーとして活躍してきた。

本業の傍ら、手仕事への愛着から数年前にパリで陶芸を始め、2018年京都への移住を機に本格的な作陶に取組んでいる。 

これまで大きなプロジェクトで多数の実績を積んできたが、陶芸家としてゼロからスタートを切った彼女。来日から今日までどのようなステップを踏み、個展に至ったのか。これまでの道程を聞いた。


「日本へ来ることが決まって以来、本格的に陶芸に取組もうと思っていたから、こちらへ来てすぐに場所を探しはじめたわ…どのみち選択肢は多くないわよね。英語でコミュニケーションがとれるところとなると… 今のアトリエに通うことにしたのは、主催者が英語を話せることもあるけれど、私がやろうとしていることに理解を示してくれたからなの」


彼女の目的とは、プロとしてやっていける製陶技術を身につけること。


「でもそんなのバカげているでしょ?普通はそういう家柄に生まれるとか、そうでなければもっと若いころから修行を始めるとか…そういう世界でしょ?」


この言葉から、彼女が趣味の製作でなく、ライフワークや職業として真剣に陶芸家を目指していることを、私は理解した。


将来フランスへ戻った時、ゆくゆくは自分の窯を持ち、テーブルウェアとしての自分の作品を販売して行きたい。
そのビジョンは来日前、パリで陶芸を始めた当初からあったのだという。


「だからパリで作った作品はほとんど残っていないの。始めた当初は、作っては割り、作っては割り…を繰り返していたから」


これは出来栄えに満足がいかず、感情に任せてかち割る …という訳ではない。皿や椀が均等な厚みに仕上がっているのかを確認するために、割って中身を確認するのだそうだ。このあたりからも彼女の生真面目さ、研究熱心さがうかがえる。


既に建築やデザインの分野でのキャリアがあった彼女は、新しい分野でどのようにステップを踏んでいくか、明確なビジョンがあった。
そのため、陶芸を開始した当初から誰かに教えを請う、というスタイルはとらなかった。 

ひたすらろくろを回し、焼いて、割って出来栄えを確かめる。
基本的な形の皿から始め、次いで椀、そしてワイングラスのようなくびれを持った形状…と徐々にステップアアップしていく。 納得がいくまで、ひたすら同じを作り続ける。ほとんどスポーツの基礎練習だ。

その日の気候や湿度によっても出来上がりは微妙に違う。その微妙な差異を体感で習得していく。いくつか技術的な相談をすることもあるが、基本は自力で行う。土を探し、釉薬を選び、その組み合わせを考える…

デザイナー時代と違って、事前にスケッチをすることもほとんどない。 手を動かしながら、形を思い巡らし、焼き上がったものを家庭で使いながら、収まりや重量のベストバランスを探り当てていく…

そこには技術の向上や完成度を求める愚直さと、感性の赴くままに手を動かしていく、自発的なクリエイションの喜びが共存している。


本展のタイトル"silence"は、京都で日々を送る中、制作で高まった集中力や寺院で体感した禅的静寂に由来する。

彼女は創作において、あまり複雑なことは語らない。
 自然や寺院、庭園が身近にある京都での生活に感化され、そのまま作品になっているのだと言う。使う土と釉薬は白と黒のみ。あとは色の対比、質感(艶とマット)のコントラスト、土と釉薬の掛け合わせの間で自由に遊ぶのだと。


それは常に意味付けを求められるビジネスの世界や、目的や合理性が先んじてしまいがちな忙しい日々の中で取り残されてしまう、「ただただ楽しむ」という贅沢な行為でもある。


Tina の作品やインスタグラムからも、彼女のセンスのよさはうかがえる。しかし、それ以上に私が感銘を受けるのは、Tinaの陶芸に対する姿勢だ。 

全く初めてのジャンルでの挑戦に対しても、堂々と自信を持って取組んでいる。そして長い道のりになることは分かっていても、時間に恐れを抱かずに、一歩一歩を丁寧に歩んでいる。


社会で女性が活躍し、キャリアを積み上げていく女性が増えていくと、今度はその経験を生かして、自分の好きな分野でステップアップしていく。それは社会の中でとても明るい兆しだ。

人間の中には色々なクリエイティビティが眠っているが、好きなことで何かを始めることをためらいがちな人が多いのも事実だ。若い頃から好きなこととキャリアが結びついて活躍している人ももちろんいるが、後になって好きなことに目覚める人も多くいる。

新しいことをドンドンやっていく姿には、年齢や実積を問わず励まされる。

実際、ドイツにいるTina の母親も長年主婦をしていたが、50 歳を過ぎて花屋で働き始め、60歳を過ぎてから勤めていた店を引継ぐ形でオーナーになったのだという。


「何かを始めるのに、遅すぎるということは決してない」


そう語る彼女の言葉には、確かな重みがあり、説得力がある。


京都で開かれるTina Kentnerの初個展。会場は日本家屋をモダンに改装した宿屋。現地へ足を運ばれる際は、ぜひ彼女と言葉を交わしてみてほしい。

⬇️会場詳細はTina Kentnerブログから⬇️

https://tina-kentner-ceramics.jimdofree.com/



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