マルジェラを巡る冒険 #5

「マルジェラの社員はフランス料理店でマナー研修をうける」

就活中、色々な会社研究をしている時期に聞いた話で、真偽のほどや、本店での話なのか日本でもそうなのか等定かではないが、あながち嘘ではないのかもしれない…
相手との会話のうちにそんな風に思った。

どんな研修がなされているかはさておき、

販売達は非常によく教育されている。

それが率直な感想だ。

もしかしたら、研修制度などまるでなく、販売員達は初日から売り場に放置されていて、今回の対応も一個人の判断だったのかもしれない。
そうだとしても、選ぶ側は非常によく人を見て選んでいる。

修理はもう結構です、と言った時、相手は全く動じなかった。
こちらの怒りをスルーしているのではなく、「大切なお持ちもの存続がかかっているんですから、ごもっともです」と言わんばかり。こちらの気持ちに共感を寄せるような口調だったが、必要以上に恐縮したり、平謝りすることは一切なかった。かといって個人商店の気のいい店主にありがちな、利益度外視のサービス精神とも違う。

おそらく、色々な客への対応に関して相応のトレーニングを受けているのだろう。付加価値が高くて高額なものを扱っているし、熱心なファンも多いブランドだから、その辺りを上手く乗りこなすことが求められるのだな、という印象を持った。

電話の向こうの販売員の、見事な切り返しにより多少落ち着きを取り戻した私は、買った時の箱を保管してあったことを思い出し、そのことを告げた。

「箱の外側にあります、38で始まる番号教えいただけますか?」

相手の声は弾んでいた。

つづく

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