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サン・マロ日記 ① : 楽しい季節

2019年の6月、私はフランスにいた。
10日ほどの短い日程で、パリから大西洋岸のナントへ、そこから北上してブルターニュ地方のサン・マロに立ち寄ってパリに戻る、という行程だった。

日本で6月といえば梅雨に加え、連休がないことも相まってあまり海外旅行へいくイメージがないかもしれないが、私的にはタイミングさえ合えばヨーロッパへいくベストシーズンではないかと思う。
ゴールデンウィークと夏休みの合間で飛行機の値段も下がっているし、現地の気候も快適。しかしまだ本格的なバカンスシーズンに入っておらず、人々の暮らしぶりは穏やか、ホテルの値段も跳ね上がっていない。

サン・マロは英仏海峡に面する城塞都市。街自体が小高い丘にのようなっており、石畳の坂を登ったり下ったりしながら石造りの街並みを見るのも楽しいし、城壁の淵に登ってそこから海を眺めるのも楽しい。城壁の外には何キロにも渡って砂浜が続いている。海岸線に沿って続く道路の標識はモン・サンミッシェル行きの方角を指していたから、ここからそう遠くはないのだろう。
私の滞在中は猛暑日が続き、誰もが日中の暑さに面喰らっていたが、それでも絶えず吹き抜ける海からの風は心地よかった。外は18時を過ぎてもまだまだ明るく、長い長いビーチは真横からの西日に照らされ黄金に輝き、ピクニックや散歩、海水浴をする人々の姿があった。

一つ後悔したことは、城塞の中にホテルを取らなかったこと。駅と旧市街(城壁の中)が2キロほど離れており、荷物や移動のことを考えて駅の近くにホテルを取ったのだ。ホテル自体は悪くなくても、やはり雰囲気に欠ける。
ホテルに荷物を置いてバスへ旧市街に向かう。
城壁の門をくぐると、日中の市街はサングラスにワンピース、短パン、サンダル姿の観光客達で溢れ返っている。メインストリートの坂道をあがっていくと、特産の海産物の缶詰をめいいっぱい積み上げた店、この地方発祥である白地に紺のボーダーのマリンルックを揃えたブティック、バターたっぷりでサクサク、甘い匂いを漂わせるクイニーアマンの店などが立ち並んでいる。二十種類を超えるカラフルな手作りジェラートが入ったガラスケース前に群がる、中学生のグループ。狭い通りに面したテラス席を通りがかった時に目に入った、おいしそうな魚の昼食。光溢れる楽しい季節はもう始まっている。

たった一泊の滞在であったが、小さな城塞都市の雰囲気を味わうには十分だった。出発の日の朝、早起きしてもう一度城塞へ向かう。人気のないひっそりとした市街を一回りした後、これまたほとんど人のいない浜辺の波打ち際を裸足で歩いた。城壁の中のホテルに併設されたカフェでコーヒーを飲みながら「ああ、次は絶対城壁の内側に泊まろう」と心に決め、名残しさを残しつつ荷物をとりに足早に駅近くのホテルに戻った。

続く

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