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「もし私が死んだら棺に○○を入れて欲しい」と言い残し、うっかり他界したら愛が溢れた話

今から十数年前のお話です。

実家の父が他界しました。
父は70代に脳出血で倒れ半身麻痺になったのですが、
その後、10年ほど闘病生活を続けながら
穏やかな晩年を過ごし、親戚・家族に見守られ旅立ちました。

別れはとても悲しいものでしたが、
父には兄妹が多く長男だった事もあり、
葬儀には多くの親戚が集まり、賑やかに見送る事ができました。

四十九日も終わり、一同しみじみしていたら
「でも、こうして皆で集まれたのも兄のおかげだね。
めったに会えない人たちにもあえたし」と
明るく声をかけてくる人がいます。
父の一番下の弟、よしお叔父ちゃんです。

彼は普段は多くを語らず、静かな人なのですが、
たまにポツリと冗談を口にして、その場を和ませる
ムードメーカー的存在でした。

美味しいものが大好きで、親戚の集まりでも、
時間まで待ちきれず、ヒョイとつまみ食いをしては
へへっといたずらっ子のように笑う姿が愛嬌たっぷり。
末っ子なのもあり、叔父叔母たちから
とても可愛がられていました。

「お花もすごかったね。部屋に入りきらないぐらい沢山で。」
確かに、父の葬儀には多くの花が届けられ、お別れの棺にも
豪華な花がいっぱい添えられていました。

よしお叔父ちゃんはおどけた様子で続けます。

「でも、もし僕が死んだら、棺に入れるのは
花よりもパンがいいな〜。例えば、
ラファエル堂のパンとかでさ!一杯にしてほしいな!」
そう言って周囲のみんなをドッと笑わせたのでした。

叔父の話すラファエル堂というのは、
昭和の雰囲気が漂う昔懐かしい地元のパン屋さんです。
コッペパンが人気で50年以上昔から愛されているお店でした。

「あのコッペパンにジャムとバターをたっぷり付けて食べると
サイコーだよね!また体格よくなっちゃうよ(笑)」

そう言ってお腹をさすり、おどける叔父ちゃんに、
その場が和んだのは言うまでもありません。

そんな父の葬儀から1年ほどたったある日、
親戚から一本の連絡が入りました。

耳を疑いました。
よしお叔父ちゃんが亡くなったとの知らせでした。

ガンでした。

ちょっと調子が悪いかも、と病院に行ったら、
検査入院することになり、
検査中、あれよあれよという間に容態が悪くなり
3日後には旅立ってしまったそうです。

いくらなんでもこんなに早く…
おじちゃん、せっかちすぎるよ。
先に旅立った兄(父)に会いたくなっちゃた?
そんなことさえ思います。

いや、人一倍気を遣う叔父ちゃんだったから、
周囲に心配をかけまいと、調子が悪いのを隠し
長い間我慢していたのかもしれません。

突然すぎる、早すぎる訃報に皆言葉を失い
悲しみでいっぱいです。
父に続きこんなに早く、またお別れをする事になるとは…。
まだ若い叔父の死に、父の時とは違う無念さで
皆、胸が詰まります。

悲しみに暮れる通夜が終わり、翌日は告別式です。
あの優しくて楽しかった叔父と明日でお別れなんて…。

思い出すのはあの愛嬌たっぷりの笑顔ばかり。
最後に会った姿さえ、おどけて皆を笑わせて…

ん?

そういえば
叔父ちゃん何か言ってませんでしたっけ?

なんだか大事な事を忘れているような気が…
ええと、思い出してみましょう。

もし僕が死んだら、棺に入れるのは
花じゃなくて別のものがいいと口にしてたような

たしか…

ラファエル堂のパンとか⁉

確かにそう言ってました。
パンっていってましたよね?
皆の前でニコニコとうれしそうに

「ラファエル堂のパンで棺を一杯に!」って!


大好きなコッペパン



いやいやいや。

あれは冗談みたいなもんですし、ないないない。
本人だって本気で言ってた訳じゃないでしょう。
ね、そうですよね?

う〜〜ん…汗
既に夜も更けて、告別式は明日です。
パンについてしばし考え込む私…


続きはプライバシー保護の目的もあり有料設定にさせて頂きました。
ラファエル堂コッペパンと同じ価格です。
よしお叔父ちゃんの葬儀の行方にご興味ある方は、
是非お付き合いください。

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