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委員長とハイポクシフィリア【1:1:0】【学園もの/狂気/サスペンス(ライト)】

『委員長とハイポクシフィリア』
作・monet
所要時間:約20分

理夢:女。立石理夢(たていし・りむ)。理系一般クラス。
定理:男。中判田定理(なかはんだ・ていり)。理系一般クラス。

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0:プロローグ

定理:(M)殺して……殺してやる……。俺のことを馬鹿にする奴は、――絶対に許さない。

◇◆◇◆◇

0:学校
0:E組・教室

理夢:ねえ委員長。

定理:(※無視)

理夢:ねえ委員長。ねえってば!

定理:(※無視)

理夢:……理系一般クラス。二年E組・成績「2位」の委員長っ!

定理:(舌打ち)黙れクソアマが。

理夢:ええ~!?ひっどお~!傷ついちゃった~!理夢(りむ)傷ついちゃった~!女性蔑視の発言は良くないと思いまーす!

定理:……その女性蔑視の世界に踏み込んできたのは、どこのどいつだよ。

理夢:その、どこのどいつかも分からない「クソアマ」に、テストの成績で毎回負けてるのは、どちらの男性様なんでしょうね~?

定理:……なんたってお前みたいな奴が、理系一般クラスにいんだよ。特進行けるだろ、普通に考えて。うちのクラスには邪魔なんだよ。

理夢:アタシが居たら一位取れないもんねえ?はーぁ。これだから男は。いや、理系の男は。論理的思考だけが、正義だと思っちゃってるんだから、救いようが無いよねえ。

定理:お前だって理系だろ……。(ため息)……嫌味を言いに来ただけなんだったら、とっとと何処かへ消えてくれ。目障りだ。

理夢:んなわけないじゃーん!アタシがそんな非効率的なことすると思う?――「小学生」じゃあるまいし。

定理:――小学生……。

理夢:アタシが小言を言ったのは、委員長の気をこっちに向かせるため。だってアタシのこと避けてるもんね。……いいや?「女」を避けてるのか。

理夢:さっきの委員長の問いに答えさせていただくと、アタシは理系特進クラスに行かなかったんじゃない、行けなかった。

定理:行けなかった……だと?

理夢:そうそう。ギリギリ成績足りなくてさ~?まあ、といっても鴫沢(しぎさわ)さえいなきゃ、入(はい)れてたと思う。

定理:うっ……鴫沢(しぎさわ)……。

理夢:アッハハ!その様子だと、一年の頃に相当コテンパンにやられたみたいだね?

定理:……思い出したくも無い。

理夢:ま、鴫沢も哀れな人生だったよねえ。散々な目に遭った挙句、あんな死に方して。

定理:……自己責任だろ。

理夢:アッハ!相変わらず酷いねえ。そんなに嫌いだったの?

定理:お前には関係ない。

理夢:どんなに嫌いな相手でも、その対象が死んじゃったら、少しは悲しんだり、感傷に浸ったりするものだと思うんだけどなあ?

定理:……あいつには、そんな感情を向ける必要ないだろ。

理夢:「天才」ってのはアタシらには到底理解できんね。それこそ理屈じゃ証明できないような、脳の処理速度を持ってる。

定理:「頭の作りが違う」とか言った方が、それっぽくなるんじゃねえのか?

理夢:らしくないこと言うね~!いや、同じヒト科の人間なんだから頭のつくりは同じでしょ。小頭症だったり無脳症だったりしない限りは。違うのは、処理速度だったり伝達物質の多さ、少なさだったり、言葉にしてしまえばその程度。……たったその程度の違いなのに、凡人は、天才のことをまるで神様かの様に祀(まつ)り上げる。

定理:……お前はつまるところ、何が言いたいんだ?結論から言ってくれ。イライラする。

理夢:まあそう焦るな。理系少年よ。同じ高校の、同じ学年のクラスメイトが、二人も死んだばかりじゃないか。少し追悼の意味も込めて、彼女たちの話をしたかっただけさ。……ねえ、委員長。――キミは、天才が「憎い」か?

◇◆◇◆◇

0:定理の回想・モノローグ

定理:(M)女に負ける。女に負ける。女に負ける。――小学生のとき、体育の時間にやったドッジボール。俺はボールが怖くて、とにかく逃げ回っていた。その様子を見ていた、当時の勝気な女子児童たちは、それから俺のことを馬鹿にし始めた。最初こそ軽い嫌がらせ程度だったが、それはどんどんエスカレートし、いじめへと発展した。――女子達からの、いじめだ。というのも、俺は小学校高学年になるまではひ弱で、背も小さくて、気も弱く、力も無かった。だから女子達のターゲットにはし易かったのだろう。……そう、高学年。――小学六年生になるまでは。

◇◆◇◆◇

0:現実へと戻る
0:教室・定理と理夢が話している

定理:……「憎い」か。

理夢:そう!憎い?にくにくさかな……ん~!今日はお肉が食べたい!ねえ!人肉ってどんな味がすると思う!?

定理:……同級生が死んだばかりと言ったのはお前だろうが。

理夢:うん。二日前だね。

定理:さらっと言うけどなあお前!大変だったんだぞ!?委員長会議ではC組の今野(こんの)が暴れだすし、どうやら死んだ久利須(くりす)に肩入れしてたみたいだったが、……やっぱり天才って何考えてるか分かんねえよ。ま、理解が及ばんというだけで、憎んではいない。

理夢:ふぅん。そうなんだ。でも、アタシのことは憎いでしょ。鴫沢のことも。

定理:(ため息)……そうだな。俺は自分を馬鹿にする奴は憎いよ。嫌いだ。それがどうあがいても追い抜けない存在なら尚更な。

理夢:プライド高いねえ。ザ・男って感じ。ダッサ。

定理:……黙れクソアマ。

理夢:アッハハ!ダサいダサい!見てらんないね!昔から一生懸命勉強してきた理系科目、誰にも負けないと思っていたのに?高校に入った瞬間、アッサリと鴫沢という「女」に負け、二年生になってもアタシという「女」に負けている。

定理:黙れっつってんだろ殺すぞ!!

理夢:アッハ!よくないよくない。感情的になるのは理系としては失格だよ~。ちゃあんと、論理的に物事を見て判断しないと。

0:定理、理夢の胸倉を掴む

理夢:うぐっ……

定理:単純な力の差じゃ、女は男に敵わねえんだよ。分かるか?(※声のトーンを下げて)

0:理夢の表情が曇る

理夢:……だ…から…ころ…したの?

定理:何がだ?

理夢:……ご…ねん…まえ……

定理:っ……!!!

0:定理、驚いて理夢から手を放す

理夢:かはっ!ゴホッゴホッ……

定理:おい。立石(たていし)。お前今、五年前って言ったか?

理夢:……言った。(※まだ苦しそうに)五年前の……殺人事件。

定理:あれは殺人事件じゃない!!事故だっただろ!?

理夢:そんだけ取り乱しちゃうと、もう自供してるようなもんだよ?

定理:なんで……お前が知ってんだよ。(※声が震える・以降理夢の台詞中も息を荒めで)

理夢:お?認めた?認めちゃった~?五年前。アタシらが小学六年生の頃だねえ。……「高月(たかつき)ダム・女児殺害・遺棄事件」。犯人はまだ見つかってないし、手がかりもほとんどない。まあ、まさか犯人が、被害者と同じクラスの、目立たない地味な男子だなんて誰も思わないよね。それも腕一つで首を絞めあげて殺した。十二歳にして指紋一つ残さない完全犯罪。

定理:……っおい!……おいおい!なんでそんなことまで知っている!お前……何がしたいんだ……!

理夢:うーん。言うなれば、復讐かな?

定理:復讐……だと……?

理夢:うん。大親友だったの。ミサちゃん。小学校は違ったけど、塾が一緒だった。アタシね、当時は人より少し勉強ができるからって、のけ者にされてたの。だけどミサちゃんは、唯一そんなアタシに話しかけてくれた。そう、唯一の理解者だったの!

定理:そんなの、いい部分を見せてただけだろ!?俺はあいつのせいで酷い目に遭って……!

理夢:いじめの首謀者はミサちゃんじゃない。

定理:え……。

理夢:よーーーく思い出して??委員長はなんでミサちゃんを殺したの?ミサちゃんはいじめに参加してなかった、むしろいじめを止めるにはどうすればいいか、アタシに相談してきてた。

0:(間)

理夢:委員長。いや、中判田 定理(なかはんだ ていり)。キミがミサちゃんを殺したのは、自分より勉強ができたから。そうでしょ?

0:(沈黙)

定理:……アイツが。アイツがアイツが。アイツが悪いんだよ!!五年前。理科と算数を教えてほしいと言ってきたのは、アイツの方からだった。でもアイツは、あっという間に俺の成績を抜かしやがって……俺は、俺には、勉強しかなかったっていうのに、アイツは友達もたくさん居て、運動もできて性格も良くて、いつもいつも、幸せそうで……

理夢:それで殺したんだ。

定理:……復讐を、したかったんだ。ずっと女に虐げられてきた復讐。男と女の力の差を見せつけてやりたかった。これ以上女に虐げられ続けるのは嫌だと思った。

理夢:……女を殺した優越感に浸って、気持ちよかった?

定理:いや、すっきりしたのは中学校三年間だけだった。

理夢:高校に入ってからは鴫沢と出会っちゃったもんね。

定理:鴫沢のことは……本当に殺したかった。「鴫沢さえいなくなれば」と何度も殺す妄想をしたよ。

理夢:そしてそれは、いつからか性癖に変わった。

定理:…………。

理夢:あんまり知られてないみたいだけど、夏休み中のあの、鴫沢・強姦未遂事件の首謀者はね?中判田委員長、キミだって説が濃厚なんだよ?

定理:……俺は関係ないし、知らない。(※声が震える)

理夢:中判田くーん。キミは、一年生のときに鴫沢に告白をして振られている。でも振られた腹いせで殺したいと思ったわけじゃない。殺したかったから告白したんだ。鴫沢と恋仲になった上で、犯してから殺すのか、殺してから犯すのかは知らないけど、キミはもう立派な異常者だよ。

定理:お前……立石……!そこまで分かっておきながら、まだ俺をおちょくる気か!?

理夢:ひー。男の怒号って怖い怖い。まあー。結局?一年生の間に鴫沢のことは殺せずに、思い悩んだまま二年生になったわけだけど……

定理:そこで殺したい女がまた現れた。――立石 理夢(たていし りむ)。お前だよっ!!

0:定理、力任せに理夢の首を絞める

理夢:……うっぐっ!!!

定理:いつもいつも、俺を馬鹿にしたような態度取りやがって!!女の癖に!!女の癖に!!俺は一度もテストの点数でお前に勝てたことがない!!……憎い!!殺して……殺してやる!!俺のことを馬鹿にする奴は……絶対に許さない!!

理夢:……して…ない……よ……

定理:あぁ!?何言ってるか聞こえねえんだよ!!

理夢:……ばか…に…して…ない……

定理:うるせえ!!

0:理夢、右手で定理の左手首を掴む

理夢:…だ……っさい……なあ……っっ!!

0:理夢、左手の拳で定理の顔面を突き上げる

定理:…うっ!!!ぶはぁっ!!!立石、お前えええ!!!

理夢:(※ため息)……何度も言ってるじゃーん。感情的になるのは理系失格だよってっ!!

0:形勢逆転、理夢が定理に馬乗りになり、首を絞める

定理:うぐっ……ぐあっ!!

理夢:ねーねー委員長??もしかしてまーだ、女の力じゃ男は絞め殺せない、なーんて思ってる??あ、ちなみにさっきのは護身術ね~。危ない危ない。護身術やってなかったら殺されてたよ~。ま、でもミサちゃんと同じところにいけるならいいのかなあ?

0:理夢の力が少し弱まる、定理、何とかして抜け出そうとする

定理:……っっ!!!

理夢:なあーんて、ねっ!!

0:理夢、更に強く力を籠める

理夢:ミサちゃんと同じところにいくのはキミだよ?中判田定理くん。

定理:うっ…うぐっ!ぐっ!

理夢:あ、でもキミは地獄に行くから、ミサちゃんには会えないのかな?せいぜい懺悔してね?

定理:う……!ぐ……!あ…あ…!

理夢:ああ、ちなみにだけど、さっき言おうとしてたこと。アタシはキミのこと馬鹿にしてない。ミサちゃんも鴫沢も、キミのこと馬鹿にしてなんかなかったよ?すごく勉強熱心で真面目な男の子だーって言ってた。

定理:うっ…ぐっ…!かっ!

理夢:つまりは全部キミの思い込み。鴫沢が死んでキミは嬉しそうだったけど、……鴫沢自身は、中判田と仲良くしたいって言ってたんだよ?

定理:う……ぐ……(※だんだんと意識が遠のいていく)
 
理夢:ねえ、いつまで小学生の頃のトラウマ引きずってんのさ?

◇◆◇◆◇

◇◆◇◆◇

0:二年E組・教室

定理:がはっ!ゴホッゴホッ!がはっ!(※ひどく咳き込む)

理夢:ふっふふ~ん♪なんとかギリギリ!死ぬ一歩手前まで攻めれたかな~?どうだった?どう感じた?本当に殺されると思った?

定理:お前っ……ガハッ……狂って……ゴホッ……る(※咳き込みながら)

理夢:人を殺したことがあるキミに、そんなこと言われたくないなあ~?

定理:なんで……お前……俺を……殺さなかった……(※苦しそうに)

理夢:え~?なんでって言われても。こんな学校の、教室のど真ん中で殺しても、すぐ見つかっちゃうだろうし、面白くないじゃん?

定理:一体、何者、なんだよ……お前……事件のことも、知ってやがったし……本当に……お前の……行動、原理は、ミサの、復讐の為、だけなのか?

理夢:んーとね。最初はそうだった。でもね?調べていくうちに、どんどん楽しくなってきちゃって、今ではすっかり犯罪学のオタク♪

定理:……俺のこと、警察に突き出すのか?

理夢:ん?……アハハ!何言ってるのさ!そんなわけないじゃん。身近にこんなに面白い犯罪者がいるんだから、手元に置いておくに決まってるだろ~?

定理:おかしいよお前……。

理夢:うーん。おかしいのは、お互い様じゃない?……だから、これからもよろしくね? ――中判田委員長♪

 
0:END

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