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月曜日の図書館 人前に出る

目を覚ますとすでに職場にいる時間だった。どうやら目覚ましをかけ忘れたらしい。職場に電話をして、時間休を取ることを伝える。間違いを犯してもほとんどの場合は解決策がある。遅刻の原因が寝坊なら時間休を取る、電車が遅れたなら遅延証明書をもらう。大人になると、相手の気が済むまで怒られ続ける以外の方法が使えてよかった。落ち着いてバナナを食べ、ピアスをつけて外に出る。

職場に着くと体調が悪いのかと口々に心配され、具合は良くないが健気にがんばりました風を装ってしまった。

レファレンス研修。前の人が話しているのを後ろで聞いているうち、次は自分だ次は自分だと思ってどんどん緊張していったが、前の席にいるK氏の足元をふと見るとかわいい水玉模様のくつ下をはいていたので気持ちが和らいだ。あきらかに小さいサイズのものを無理矢理はいているらしく、水玉が楕円になっていた。

わたしが話している間、みんな宇宙人の友好スピーチを聞いているみたいにぽかんとしていた。

その日の夜は久しぶりに怖い夢を見た。やさしそうな女の人が実は殺人鬼で、彼女に顔をこねられると目も鼻もいっしょくたになって死んでしまう。わたし以外彼女の正体に気づいている人はいない。わたしはみんなに警告したいし助けを呼びたいのに、カウンターが混雑していてヘルプに入らないといけない。なぜかおばさんグループが何組もやってきて、同じことを尋ねる。能面の展示はどこでやってるの?

わたしが担当するトークイベントの申込受付がはじまる。新聞で取り上げてもらったこともあって開始直後から多くの申し込みがあり、順調なすべり出しだ。

図書館の他の大きな事業とぶつかり、本当はマスコミに情報提供しても全く相手にされなかったのを、課長が記者の方に(半ば強引に)取材をおねがいしてくれたのだ。

記事には満面の笑みのわたしが写っており、まるでわたしがイベントの講師であるかのようだ。大勢の前でしゃべるより、告知のチラシを作る方が断然好きだが、メディアに露出するのはやぶさかでない。

関連する展示について、M木くんが写真を図書館のTwitterに上げてくれたが、展示を見ている彼の身体で展示内容が半分以上隠れている。

研修のとき、統括を担当していたDはところどころ船を漕いでいて、数年前に自分が講師だったときは世界の終わりみたいに大騒ぎしていたのに、この変わりようは何だ、顔中こねくり回したろか、と思った。

研修室でインターネットにつなげるため、ふたつ先の部屋から引いた長い長いLANケーブル。

大きな事業の方はテレビ局の取材もたくさん来て、番組を見た人たちからの貸出カードの申込が激増した。あんなに来る日も来る日もカードを発行していたのに、持っていない人がまだこんなにいたのが驚異的だった。自分の周りは赤一色だと思っても、ほんのちょっとそこからはみ出たら全然違う色が広がっているのだった。

勢いこんでカードを作りにきたおじいさんが、で、このカードで何をしたらいいの?と恐ろしい難問をぶつけてくる。

いくら研修しても、この問いには答えられない。

夢の中で、パワポの画像がぼんやり浮かんでいる。何度も家で予行演習しているが、何か違うところがあるようで仕方がない。どこだどこだ、おかしいのはどこだ、と考えているうちに、そうだ、左端のこのタブをクリックしてください、と言っていたが、みんなから見ると反対なのだから、右端と言わなければならないのだ。と気づき、安心して目を覚ますとすでに職場にいる時間だった。

結局本番中は慌てすぎて、ここらへんのやつ、としか言えなかった。

vol.76


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