国際支援でブロックチェーン技術はどう活かされる?最先端技術の社会変革の可能性
先日、「国際支援でブロックチェーン技術はどう活かされる?最先端技術の社会変革の可能性」というイベントをJANICのワーキンググループにて開催しました。
企画したのは危機感から
今回の企画は「国際開発の分野でブロックチェーン技術が盛り上がっているのに、日本では全然盛り上がっていない。アウトプットまでできないにしても、まずは国際的な潮流としてインプットくらいはしないと、日本の国際協力NGOはやばくないか?」というものでした。
この危機感を強めたのは、今年に入ってから、イギリスの国際協力NGOネットワークのBOND会議の話を聞いたとき。
BOND会議に参加した方が「会議で今年一番盛り上がっていたのはブロックチェーン」という話をされていたんです。
やばい、、、日本のNGOでは全くもって注目を浴びていません。
国際協力NGOのネットワーク組織であるJANICで、これを取り上げなければと、思ったのです。
わたし、仮想通貨もってます
だから何だって話ですけどw
わたしはブロックチェーン技術、仮想通貨に可能性を感じていて、昨年から複数の仮想通貨を保有しています。
プライベートで仲良くしているシェアリングエコノミー仲間の間で、2016年ごろから、「仮想通貨もってないの?やってみたほうがいいよ?」という話が結構出ていたんです。
その時は勉強不足で、「へ~流行ってるな~」くらいにしか思っていなかったのですが、2017年に入って書籍や映画で少し勉強しました。
とりあえず持ってみないと、体感しないとわからないな、ということで昨年から複数の仮想通貨を保有するようになりました。
というバックグラウンドもあり、仮想通貨について深く理解はしていないけど、昨年から関心はあり、仮想通貨を保有している、というのがわたしのブロックチェーンとのかかわりです。
多数のNGO経営者が参加してくれた
勉強会では「国際支援でブロックチェーン技術はどう活かされる?」をテーマに株式会社カルミナ代表取締役の安藤昭太さんを迎えお話ししていただきました。
参加者には、NGO経営者の方も多く、「ブロックチェーンとはなにかが全く分からないから勉強したい」という声も聞かれました。
そうした声にこたえる形で、
第一部では、ブロックチェーンの仕組みを基礎から丁寧に解説
第2部では、国際協力×ブロックチェーンの事例を紹介
という流れにしました。
ここからは私の印象に残ったことをいくつか紹介していきます。
ブロックチェーン技術を生かすべき案件は多くない
ずっと気になっていたのが、データベースではだめなのか、ということです。
まず、ブロックチェーン技術は大きく3つのパターンに分類されます。
①パブリック型:ビットコインなど
②コンソーシアム型:一部の組織がつかえる(複数の組織が合意形成してつくる)
③プライベート型:一つの組織がつかえる、(一つの組織がつくる。例えば三菱UFJがつくったMUFGコイン)
国際開発分野で現在活用されていたり、構想されているのは、圧倒的に②③が多いです。
ただ、ここで問題になるのは、例えば②③のレベルであれば、これはデータベースでもいいじゃないか、という話にもなりえます。
いまのクラウドCRMでも大量の個人情報は扱われていますし、楽天ポイントだって、「楽天」をみんなが信頼する形で1ポイント=1円として使われているわけです。
実際に③のプライベート型はブロックチェーンと呼ばなくていいのではないかという議論も出てきているそうです。
ダボス会議では、「いまブロックチェーンで実現しようとしていることの8割は、データベースでいいじゃないか」という見解も示されているそうです。
電力を多量に使うブロックチェーン技術と地球環境。活用は慎重に
「8割はデータベースでいい」とはいえ、まだ発展途上の技術。
さまざまなシーンで実用化されながらブラッシュアップしていくという側面があるので、どの組織も「まずはやってみよう」精神で動き出しているので、現段階では技術の乱用が散見されてしまっています。
そこで、一番気になるのが、地球環境の問題です。
電力を使うということは、すなわち地球環境に負荷がかかるということです。この点はまだ見過ごされているけれども、とても重要な点。
実際にヨーロッパのマイニング施設では、湖の水を使って冷却をし、温かくなった水を湖に返すので、水温が上昇してしまい生態系が崩れるといった問題が出てきています。
これから最適化が進み、ある特定の領域だけブロックチェーンが使われることになるとは思うのですが、「本当にブロックチェーン技術が必要な時にだけ使う」という慎重さを社会が求めていく必要があると思います。
ここにはNGOや地域のNPOの果たす役割がありそうです。
国際開発におけるブロックチェーン技術の4つの活用ポイント
国際開発、国際協力分野でのブロックチェーン技術は4つの活用ポイントにまとめられます。
①価値の保有(通貨として使われる)
②グローバルID(難民にID発行するなど)
③透明性のある取引:トレーサビリティ(中間で悪いことをする人が排除される)
④中間仲介者の排除(ビットコインだと簡単に国境を越えて個人間で送金できるので、国際機関や規模の大きなNGOに寄付するよりも、現地の住民組織や現地の個人に直接送った方がいいよね、という話)
例えば、国連では2018年春の段階で、28の国際機関が何かしらブロックチェーン技術の活用を考えていたり、実際にパイロット事業を開始したりしています。
実際の活用フェーズをみてみると、まだ本格的に実用化されているものはなく、いま話題になっているような難民へのID発行プロジェクトなどもプロトタイプ事業の段階です。
活用フェーズは、まだ「プロトタイプ」「ワークショップなどでコンセプトを検討」「スタートアップへの投資」の3つのパターンにとどまっています。
海外での活用事例をご紹介
ここでは詳細は触れませんが、こういう事例がありますというご紹介です。
1)WFPの「Building Blocks」
生体認証を活用することでシリア難民50万人にID発行。このIDによりバウチャー配布や金銭のやり取りを実現。
関連記事:WFPがブロックチェーンを活用した食糧支援プラットフォーム「Building Blocks」を開発
2)ドイツのスタートアップ発の「taqanu」
ドイツのフィンテックスタートアップが開発。「taqanu」でドイツに逃れてきた難民にIDを発行。これにより銀行口座の開設、行政サービスの受領が可能になる。急増する難民へのサポート業務をコスト削減できるのでは、と期待されている。EU諸国に展開の予定もある。
関連記事:ブロックチェーンを活用してデジタルIDを発行。難民でも銀行口座を作れるアプリ
3)ダイヤモンド取引を透明化する「Everledger」
2015年4月に設立されたロンドンに拠点をおくスタートアップ。これまでに100万個以上のダイヤモンドの情報をブロックチェーンに記録。
紛争地域で産出されるダイヤモンドは武器購入の資金源となっていることが問題視されていて、トレーサビリティを確保する必要がある。
4)ホームレスにIDを発行「fummi」
ニューヨークの約7万人のホームレスにスマホとブロックチェーンアプリを配布。これがIDになるとともに、フードスタンプを関連付け、食料購入や行政サービス利用を可能にした。
関連記事:ニューヨークに住む約7万人のホームレスを救う?ブロックチェーンで”身分証”を付与するプロジェクトが始動
5)CO2排出権取引を個人へ「carbonX」
国連のREDD+という規定に基づいたCO2の排出権を購入し、代わりに換金可能なCxTトークンを発行。
環境負荷が低い製品、サービスを購入するとトークンを払い戻してくれる。
関連記事:CarbonXプロジェクトとは?気候変動問題に取り組むカナダのブロックチェーン企業
6)グローバルIDをすべての個人へ「ID2020」
世界中で使用できるグローバルIDをオープンテクノロジーで発行する。
国連機関、NGO、政府、企業が連携して現在IDを持たない人たちにデジタルIDを提供するとともに、分散型のIDネットワークのフレームワークの標準を作り、効率的に開発人道支援を提供できるようにすることを目指している。
7)ビットコイン寄付市場最大の財団 「pinapple fund」
2017年のビットコインバブルのときに突然現れたファンド。ビットコインバブルで得た差益をすべてファンド化し、NGOへ寄付している。
日本語の記事見つからず、、、もし関連記事の推薦あればください。もしくはだれか記事書きませんか~
8)社会的インパクト評価「ixo Fundation」
社会的インパクト評価の指標をブロックチェーン上で収集、可視化する試み。発行されるトークンでNPO/NGOに支払いされるインパクト投資の仕組みもある。
日本語の記事見つからず、、、もし関連記事の推薦あればください。もしくはだれか記事書きませんか~
これからの発展のために必要なこと
よく現場では「技術のことわからない~」「なにができるのか教えて~」という声が聞かれるのですが、おそらくそういうことを言っているうちは、イノベーションが起きない気がします。
他のテクノロジー活用もそうですが、現場の人間、例えばここでいうとNGOの人が、ざっくりとブロックチェーンでどんなロジックでどんなことができているのか、をなんとなく理解しておく必要があると思います。
そのうえで、技術サイドとディスカッションしてブロックチェーンで課題解決できる方途を見つけていく必要があると感じました。
今は技術サイドは「なにが課題か分からない」、NGO側・国際開発に携わる人側は「なにができるのかわからない」という状態です。
ここを橋渡しするには、テクノロジーに強い関心を持つ開発ワーカーも必要だし、社会課題に強い関心を持つ技術者/スタートアップ経営者がいるといいのかなと思います。
実際、国際機関の投資先として多くのスタートアップ企業がブロックチェーン技術を使ってビジネスと社会課題解決を両立させようとしています。ここに、さらにNGOなどから現場の声が入れば、より活用しやすいものになるのかもしれない。
とうことで、今後は技術サイドの人とNGOの人が同じ机を囲んで議論できる機会を作っていこうかなと構想しています。
ちなみに、今回のイベントについて、下記にもレポが上がっています。
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