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トルストイを知ってるかい?

読書家と呼ばれている方々には及ばないけれど、本を読むことが好きです。

自己紹介の趣味欄に示していたこともあるのですが、あるとき、本を読むのは好きというよりも当然のことで、それはわざわざ紹介するまでもないと気付いて「趣味は読書」をやめました。

ただ本を読むこと。
それは歩くことや、字を書くことと似ています。このごろ、そんなふうに感じられるような時間が増えてきたので、ちょっと紹介したくなったのです。本を読む方も、そうでない方も、知ってほしい作家がいるのです。

いま僕が好きなのは、ロシアの文豪、トルストイなのです。

作家の写真は、いかにもロシア人らしく、音楽室の壁に貼ってある肖像画のようで、怒ったら怖そうな風貌です。
作家たるもの、世の中に批判的に筆を執り、著作には絶大な自信をみなぎらせるべし。といったような雰囲気が、彼の写真から受ける印象でした。

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ーなぜ、トルストイなのか。

古くて茶色くなった岩波文庫が、実家の本棚にあります。それは、僕の父が若かりし頃に読んでいたトルストイの著作です。
油紙のように薄く、心許ない感触になってしまったページ。活字がびっしりと並び、繰るたびになんとも言えない香りがします。

初めて読んだときは、小学生くらいだったので、まったく歯が立たずに、すぐに本棚にしまいました。

高校生になっても、大学生になっても、背後からトルストイが睨んでいるような気配を感じながら、なかなか読み進めることができずにいたのです。

今になって、ガンガン読めるようになった。という展開ならいいのですが、大学を卒業して十数年経って、このnoteを書くまでには、古ぼけた岩波文庫を何度となく開き、トルストイに圧倒されながらも、噛み砕いていったのです。

というわけで、トルストイにガーンと衝撃を受けたというよりは、少しづつ距離を詰めて行ったことで、分かりつつあるような心境になってきたのです。

ー読みたくなってきたら。

おすすめは「民話集」です。
ロシアの民話から、彼なりの解釈を加えて、物語に脚色している作品です。短編であることと、ロシア的な思想が色濃い文章と、荒涼とした厳寒の風景が目の前に広がるような、独特の雰囲気があります。

それでいて、終末観が漂うような悲しさがないという印象があります。その理由は、作家の人生の根底にキリスト教たる宗教観があるからだと、僕は考えています。人間は救われる、そのために必要なのは「愛」である。そのことが、どの話にも繰り返し出てくるのです。

その民話集の中でも、有名なのは「イワンのばか」。軍隊や金など、現代的な価値を皮肉に描きつつ、人間らしさとは何であるかを問う彼の代表作です。

ほかにも、欲深い百姓が地面を得るために歩き通す話や、靴屋にやってきた不思議な青年の話も是非読んでほしい物語です。

ーもっと読みたい人へ。

「人生論」という、作家の考え方が純粋に述べられている著作があります。純粋とはいえ、非常に慎重に論理展開を重ねており、重たい作品です。(その証拠に「重い」という字が何度も出てきました笑)
これは、彼が作品で描こうとしている、神の愛に関することと、人間の命との関係が、緻密に考察されているため、宗教観の明確でない僕にとっては難解そのものでした。

この作品を数年前に読んで以来、何度か読み返すうちに、人生について深く考えるきっかけを得ることができました。つまり、生きる意味を問いながら読んでいるような感覚です。

作中に「人間は、どんなときでも簡単に死んでしまう。いま生きているのは、ただの偶然の積み重ねである。」といったような記述があります。彼の作品に流れる、主人公の人生を応援するような温かな視線の原点は、そこに集約されていると、僕が強く感銘を受けた表現です。

生きる意味というよりも、死んでいない意味について問うているのだと気づいたとき、人生ってそういうことか!と溜飲を下しました。

読み手としての僕というひとりの人間が、親の存在に気付き、さらに夫として家族の人生を生き、親となって子の人生を作っていく。そんな年月とともに、彼の作品は多くの「気づき」を与えてくれるのです。

ーまだ読んでないのもある。

とはいえ、まだ読んでいない作品もあります。「アンナ・カレーニナ」や「戦争と平和」など。

集中的に読むというよりは、短編を時々読んでみて、なるほどこんなジイさんがいるのか、と確認していくのが僕なりのトルストイ攻略法です。
神を信じるとか、利他の精神を養うとか、そういうストイックな発想もありますが、僕はロシアの荒涼とした厳寒の大地に生きる人間たちの、愚かさや温かみを感じることが、作品の価値だと信じています。

そんなふうに感じられるようになって、僕の父が、トルストイが好きだと言っていた理由が分かってきたような気がします。
それは、きちんと言葉にできない「愛」が描かれているからではないかということ。ともすれば荒っぽい物語に心痛めたり、頑張る小悪魔が憎めないと自分に重ねてみたり、薄暗い光景の中に生きる人々には、希望があるのです。

自己啓発や宣教ではなく、人間そのものが正直に描かれている作品たちなのだと考えています。だから、読んでほしいのです。
ロシアの古典、なんて重苦しい肩書きはともかく、「イワンのばか」から始めてみませんか。

長々と、お付き合いいただきありがとうございました。

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