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【制作日誌 #01】 約束


制作日誌 #01     

2020年7月10日(金)

降り続く雨で、なんか気分がシュッとしない。

ここ最近の休みの日は、大概お昼までこんこんと寝て、むっくりと起きる。

エネルギー満タンという感じではないが、まあそういう時なのだろう、焦っても仕方がないので、本を読み、ピアノを弾き、食事をして、寝る。こんな日々。

それでも、少しずつ物事は動き始めている。

少しでもいいから、この日誌とともに進む。

ノートはいつだって、私の味方。

そして、読んでくれているあなたは、共犯者。

今日も、ありがとう。

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そもそも、どうして「舞台」に惹かれるのか。

もはや「引力」といってしまえば、そんなような力なのだけど、ここはあえて言語化してみようっと。

「舞台」という箱には様々な要素がある。俳優、演出家、音響、照明、美術、衣装・・・「舞台が好き」と言えば一言で片付いてしまうけれど、そこには、好きな俳優がでているから、演出家が好きだから、戯曲が好きだから・・・色々な理由があってお客さんは足を運ぶ。


私にとっての「舞台」

それは、「空間」である。

それは、 目に見えるものと    目に見えないものが   交差する空間 だから。


子供のころは、当たり前のように、目に見えないものが暮らしのすぐそばにあった。

風の中に声を聞き、暗がりの中に潜んでいるものがいて、音や匂いや、五感全てで、この世界の不思議を感じとっていた。

子供の頃はそれなりに不思議な体験をしたし、誰しも、子供の頃の記憶にいくつかあるのではないか。

そんなに不思議なことではない。

だって、昔の時代は、もっともっと身近なことだったのだから。

子供の頃は、すぐそばにあったのに、大人になっていく過程の中で、その「見えないものたち」の存在はどんどん薄らいでいって、それでもふとした時に、突然思い出したり、風の中や雨の匂いの中に、気配を感じたりする。

旅に出ている時も、普段よりその感覚はひらいていたりする。

それは、自分が「安全」の外側に出ているから。

「未知」の場所に片足を突っ込んでいるから。

ああ、だから、私はずっと1人で旅に出るんだな、と思う。

私にとって、「旅」は、その感覚をひらく、ひとつの方法であったりする。

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「舞台」も、同じ。

舞台上に何もなれけば、

真っ黒い空間に、板が一枚。 ただそれだけ。

それでも、

その板の上では、お客さんは「目に見えないもの」を感じたりする。

目に見えているものだけなら、俳優たちがその上を動き回っているだけ。

でも、信じて身を預けた瞬間、そこには、「見えないもの」が出現する。

動物や怪物、魔のもの。景色。生と死の匂い。

空間の中に流れる、空気さえ変わる。


私はただ、この交差する空間が好きなのだ。

お客さんたちが「信じよう」「見よう」とした瞬間に現れる

あの次元の歪んだ空間が。


場所は大きくたって、小さくたって、なんなら稽古場だって野外だって。

どこにだって、その空間は現れる。


そして、その空間、その交差する瞬間は、私にとって、なんだか旅先での感覚と不思議と似ていたりするのだ。

こんなふうに、世界には無数に、異なる世界へとつながる扉があったりする。

だから私は、何度離れても、また、あの空間に戻るのかもしれない。


山形を旅していた時も、ふとした瞬間、そんな、不思議な気配を感じる時はいくつもあった。

そりゃそうだ、東京の夜の煌々と照らされた外灯の下、ザワザワとした騒音の中では感覚の蓋は麻痺しっぱなしだったのが、

街灯もない「闇」ばかりの、静かなあの土地の中では感じることが100も違うだろう。

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山形での作品のことについて、考えていた。

もう構成台本も出来上がり、ひろみと音楽も作りながら、大体の流れも決まってきてはいたけれど、

コロナの空白の時間のなか、これでいいのか、頭の中はぼんやりとして、なかなか先に進めなかった。

HANAICHIを立ち上げ、ようやっと自分の世界を広げてみようと決心できた。

拙いだろう。ボロクソに言われて、心の弱っちい私は、もう評価されることとか人の目に晒すこととか、嫌になるかもしれない。

これが、最初で最後の作品になることだって、100パーセントありえないわけではない。

そう思った時、それならば、私は、今までずっとやりたかったことを、拙くてもいいから全開でやってみたい。

そう、思ったのだった。


ずっと、それを描くために、舞台という空間から離れられずにいる気がする。

ずっと、それを描くために、ここまでこれたのだと思う。

あの空間で再会するために、私は、ここまできた。


10歳の頃、私はある約束をした。

誰と約束をしたかは、秘密。

でも、あれ以来、ずっともう17年間、心の中でその約束はずっと生き続けている。

その約束があるから、どんなにヘンテコな人生でも、器用に生きられなくても、 めいっぱいこの世界で命を燃やし尽くして、次の世界へ行くと決めている。


山形の作品は、彼らともう一度会うための、「再会」の作品にしよう。

拙くていい。うまくなくていい。

私が本当に心から、「彼らと再会できた。」と言えるものを、つくってみようとおもう。


「舞台」は「目に見えるものたち」と「目に見えないものたち」が交差する時空の歪んだ空間。

その場所として、山形は私にとって、最適の場所だと言えるだろう。

山形での出会いは、私にたくさんのことを教えてくれた。

また、思い出させてくれた。ずっと忘れかけていたことを。


この作品は、私と、彼らと、お客さんたちが

ひとつの空間で出会う、作品にしよう。

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行くべき方向は見えた。

今年上演する予定だったものより、きっと良いものにしてみせる。

拙いかもしれないが、私が嘘偽りなく、ワクワクできるものを。


まだまだ、手探りの日々。

コロナの収束もまだまだ遠い。

旅に出られる日はいつになるのか。

山形に帰れる日はいつになるのか。

まだまだ、わからない。


それでも、

雨の日の夜

強い風の中

彼らの声が聞こえてくる。

それは、わたしのなかで、唄になり、音になり

物語になる。

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忘れかけていた、彼らとの約束を

HANAICHIの船出とともに、思い出せた。


山形の、大鳥の、あの体育館の中で

ピアノの一音に

太鼓や笛の振動に

手足の流れの中に

唄にのって

彼らはやってくる。

その風を、思い描いている。


描いてみよう。

私の世界を。

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Photo by Hideki Kurita






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