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【課外活動ミニレポ】『諸相』スタディ

『諸相』スタディこと、『宗教的経験の諸相』スタディ・ミーティングは、AAメンバーのしまさんペーさんが運営し、毎月第一土曜日の20時よりZoomで開催されているAAのオープン・ミーティングです。『宗教的経験の諸相』とは、1902年に刊行された、アメリカの哲学者・心理学者ウィリアム・ジェームズによる著書。著者はこの本の中で、豊富な実例を挙げて様々な宗教的現象を考察し、その普遍的な価値を探っています。しかし、なぜAAのグループがこのような本を学んでいるのでしょうか。

AAの共同創始者の一人であるビル・ウィルソンは、1934年、アルコホリズムの絶望の淵にいました。その年の12月、彼は入院先の病院で霊的体験を得ることによって、アルコールから解放されます。その後『諸相』を読んだビルは、自らの経験をこの本の中に見つけました。彼は My First Forty Years という自身の伝記の中で、『諸相』そしてジェームズについて「決して読みやすくはなかったが、この本を一日中読み続けた。日が暮れる頃には、もう長らく墓の中にいたこのハーバード大学の教授は、誰にも知られることなく、AAの創始者の一人になっていた(拙訳)」と語っています。ジェームズの思想は、その後もAAに大きな影響を与えました。AAの始まり、原理の形成と共同体の成長に不可欠であったこの本は、後にビルの妻であるロイスによって創始されたアラノンにとっても同じく重要であると考えます。

『諸相』スタディは、画面共有される『諸相』のテキストをコ・リーダーのぺーさんが読み上げ、セッション・リーダーのしまさんが内容を解説するという講義形式で行われています。このスタディには、『諸相』の研鑽により12ステップの理解を深め、AAの回復の原理を伝えるという目的に加え、もう一つ「スポンサーを育てる」という稀有な目的があります。先月「結論」を終え、今月から本格的にスポンサーシップに焦点を当てたセッションが始まりました。この日のテーマはずばり「AAのスポンサーシップとは何か」。AAの始まりに何が起こったのか?その現象を『諸相』から明らかにし、そこから、現代の私たちのステップワークにおいて「スポンサーはスポンシーのどのような過程に同行するのか?」「その過程で必要なことをどうやってスポンシーに促すのか?」という問いを経て、AAのスポンサーシップ、そしてスポンサーの役割が炙り出されました。

ところで、AAのスポンサーシップとアラノンのスポンサーシップに違いはあるのでしょうか?『心の家路』によれば、「AAにおけるスポンサーシップとは、新しい人がアルコールを飲まずに生きていけるようになるために、他のAAメンバーが基本的に一対一で手助けする仕組み」です。片やアラノンの基本テキスト How Al-Anon Works(未翻訳のため原文を引用)には、以下のように書かれています。

Sponsorship is one of the chief resources we use to help us to cope with and recover from the effects of alcoholism. A Sponsor is someone with whom we can share about ourselves and our circumstances in detail.

How Al-Anon Works (2008): 36

こうして見ると、AAでは「新しい人がアルコールを飲まずに生きていけるようになるために」のところが、アラノンでは「新しい人がアルコホリズムの影響に向き合い、その影響から回復するために」になるだけであり、そのために行うステップワークが目指すものはまったく同じであると言えます。『諸相』スタディの翌日、私のホームグループのミーティングのトピックは「ステップ5」でした。前の晩に学んだ話をしようと思ったものの、さっそく怖気づいて逃げ腰になる始末。自分が欲しいものを求めるとこうなるのですよね。今も苦しむ仲間を前にして、このような自分であるのが現状です。それでも祈り、与えられたことを一つ一つやっていくしかありません。

というわけで、次回の『諸相』スタディは10月5日(土)です。大小様々な球が飛んできて当たると痛いですが、最終的にはいつも自分のためになります。お見逃しなく。

参考文献
How Al-Anon Works (2008): 36