『世界の終わりの魔法使い』西島大介

セカイ系×ファンタジー

科学が滅んだ時代の魔法の村。何故か魔法が使えない少年は、ひとりの不思議な少女と出会い「世界の終わり」と闘うことに――。読めばゼッタイ勇気がもらえる傑作ファンタジー
世界の終わりの魔法使い (九龍COMICS)

シンプルなボーイミーツガールなんだけど、「魔法」というファンタジー要素とセカイ系ぽい展開が絡んでくる。
魔法使いの世界で、唯一魔法が使えない少年が主人公。劣等感を感じながら鬱屈とした毎日を送ってるところに、ひょんなことからひとりの魔女と出会って…ていう展開。
DJもやってるだけあって、作者はめちゃくちゃサンプリングが上手い。既存の膨大なデータベースの断片をチャチャッと手際よく一つの物語にマッシュアップさせてく手腕が光っている。
主にエヴァとかフリクリとかジブリを下敷きにしてるのかなと思った。
キメラのデザイン=エヴァ量産型。ゴーレム=ナウシカの巨神兵。主人公とヒロインの関係=フリクリ。主人公の覚醒シーン=ラピュタのパズーとドーラがシータ助けに行くシーン。
そういう元ネタっぽいシーンを考えるのも興味深いし、単純にストーリーも面白い。
『凹村戦争』の時から「セカイ系」とか言ってるけど、詳しい定義を今ひとつ分かってない。社会とかをすっ飛ばして、個人の自意識や行動が世界の命運に直結するような物語、とざっくり解釈してる。
「魔法が使えない」=「徹底的に無力」な主人公が自分を無視し続ける世界で何を成すのか。途中までのひねくれた鬱屈っぷりから後半の爽やかな覚醒シーンのギャップが熱くて良かった。
作中でさんざん繰り返されてきた「魔法なんか 信じない」のモノローグが一気に反転するところの高揚感が凄すぎて、もう。

タイトルからして「世界の終わりの魔法使い」で、実際作中にがっつり世界が終わるし、その世界の終わり方も、絵柄がかわいいくせに洒落にならないくらいシリアス。でも、そこまで重く見せないのはやっぱり絵柄の力がすごい。
イラストっぽくもあり、圧倒的な抜け感を感じさせる独特のタッチ。見開きがめちゃくちゃかっこいいんだよな。
この作品があまりにも綺麗にまとまってるので、シリーズものなのに続きを読むのが怖くて読んでいない。
けど調べてみたら2巻の評価が異様に高いので、読みたくなって来た。ハリー・ポッター、ターミネーター、マッドマックスみたいに2が最高傑作のパターンかも。
このシリーズ、描き下ろしで出版してる作品なのに編集の人に原稿を紛失されたり、大変だったらしい。
そういう話を耳にするたびに、自分の性格的にどちらかと言ったら原稿紛失する側の人間なので気をつけようと思う。

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