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土を聴く

いつもの公園の土を聴くことにした。
こころをしずかにすまして、
足もとからのぼってくる声を、待つ。
ふと、微妙な感じがして、わたしは訊いた。

「どこかから、持ってこられたの?」

ゆっくりと、意味が実を結ぶ。

「・・・うん、そうだよ」

「どこか別の場所にいたんだ」

「・・・うん」

「それはどんな所?」

・・・

土はとても無口で、のっそりとしている。
言葉になるまで時間がかかる。

「帰りたい?」

「・・・いや」

「どうして?」

「・・・どこででも、俺は、土だから」

「ここは好き?」

「好きも嫌いもないよ、ただ、土をやるだけさ」

「たとえば陶器や煉瓦になってみたいとは思わない?」

「あれは、別の種類の土だ。俺を燃やしても何にもならない」

「じゃあたとえばそれになってみたいと思う?」

「いや」

「自分が好き?」

「好きも嫌いもない。俺は昔から土で、これからもずっと土だ」

好きも嫌いもない、
土は、いつもそんな感じをよこした。

ふと、訊いてみた。

「地震は怖い?」

「・・・怖い」

「怖いものはあるんだ」

「そりゃあ、ある」

「なんで怖いの?」

「大きな力に引き裂かれる」

「前兆とか、感じない?」

「はるか下の方で何かやってる感じはある。
でも、俺はただ上に盛られた土だから」

「でも、同じ土でしょ」

「同じじゃない」

「でも、区切られてもいないでしょ。
もしかしたら自分の端っこが、ずっと続いているかもしれないとは思わない?」

土はしずかになった。
しばらくして、ゆっくりとつぶやいた。

「するってぇと、あんまり、怖いものはないな。
世は事もなし、どんなに大地が裂けても、俺は土で、ただ土をやるだけさ」

少しだけ、土が人間っぽくなった気がした。

「ねぇ、うれしい、とか、気持ちいい、とかの気持ちはある?」

「気持ちいい、はある」

「どんな時?」

「おいしい水をたっぷりとった時さ。
俺の中で、いろんな命が動いて、生まれ、死んで、また産まれて生きる。
その全てのうつろいを、ただ、俺は、抱いている。
それは、誇りというようなものかもしれない」

土は、言葉を選び選び、語った。
強制も、嘆きも、喜びも、自慢もなく。
私はしばらく土を見つめた。
ふと、目に入るものをそのままつぶやく。

「ねぇ、木漏れ日に草が芽吹いて、すごく、きれい」

すると、びっくりしたことに、土は、
「へへん」って、自慢気に鼻をならしたのだ。

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