小田万里子

これまで様々なものを書いて来ましたが、大人の恋愛小説は初めてです。書いてみるとなかなか…

小田万里子

これまで様々なものを書いて来ましたが、大人の恋愛小説は初めてです。書いてみるとなかなか楽しいものです。私の日常は平凡です。毎日丁寧に掃除し、料理し好きな音楽を聞いて散歩する、そんな静かな生活を送っています。いろいろな人を思い浮かべながら群像を描くことに喜びを感じています。

最近の記事

反抗期

 二浪した淳司が東京の大学に入学して、成海家は倫子と三男の恭平の二人だけの家庭となった。  父親は、十数年にわたる単身赴任で、長男は社会人として関西で仕事をしている。分かってはいたが、三男の恭平との生活は、倫子にとって拍子抜けするものであった。  監視人のいない夏の海、看守のいない塀の中、規律のないフリースクール…。いや、言い過ぎか。  にしても、それに近いものがあるのは否めない。  恭平は高校三年生だ。まず起きてくる時間が遅い。8時過ぎてノロノロと起きてきて、のんびりと朝

    • 大人の恋愛小説・マダムたちの街Ⅱ-3

      その3 終わりと始まり(最終章)  駅から五分の立地のいい谷さんのマンションは築三十五年らしく、かなり古ぼけていた。  五階の東向きで日当たりはかなりいい。ベランダに出るとその下には線路が数十本、束のようになって北へ伸びているのが見える。車両がひっきりなしに通過する。上から見ると、線路というものは無骨で荒々しいものだなと思った。  ベランダには小さな鉢植えがひしめき合い、花や実をつけていた。谷さんにはこういう趣味もあるのだ。  窓を開けて膝附椅子を二つ窓際に運び、僕はその

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        第二章 その2 アプローチ  平凡な日が帰って来た。ぼんやりしている内に季節が一つ変わった。  ある時、僕は谷さんに呼び出された。改まって話があると言う。場所は麻生さんのマンションだ。  気乗りしないものの、谷さんの誘いなので出かけて行った。  改まってと言うので、一応Tシャツの上にジャケットを羽織った。  この町を縦断する川が蛇の形に蛇行している。その頭の部分に当たる河川敷を見下ろすように建っているのが麻生さんの住むマンションだ。  町全体が丘の途中らしく、坂を上って

        • 大人の恋愛小説・マダムたちの街Ⅱ-1

          その1 あっけない結末  待ちに待った旅行当日。僕は約束の時間前に駅のホームで典子さんを待っていた。  ややウキウキした典子さんが現れ、二人で新幹線の指定席に乗り込んだ。穏やかな会話をしている最中に、親爺から電話が入ったのである。  出張先の長岡でバイクと車の接触事故を起こした。自分も相手も怪我をしているから、至急来てくれというのである。  何と言うタイミングの悪さ。すべてが吹っ飛んで、典子さんに謝罪すると新幹線から降りた。そして僕はそのまま新潟行きの電車を探してホームを

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          その3 中原家の波乱  まず、僕が典子さんに「今すぐあなたとの将来は考えられない」と言うと、典子さんは長い手紙を送ってきた。それは出会いからこれまでの僕の言動を分析して僕の人柄を褒めてくれるものだった。読んでいてむずがゆくなるような手紙だったが、悪い気はしなかった。そもそもこういうものを今まで一度ももらった事がない。  僕は気を良くして、典子さんの気持ちは分かった、少しずつ前向きに考えたいと勿体ぶって返信を書いた。  更に熱にうかされたような手紙は続く。今度は僕との未来を

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          大人の恋愛小説・マダムたちの街Ⅰ-2

          その2 家庭の事情  僕が暫く外を出歩いていた間に、家の中でちょっとした諍いが起きていた。  ふだんは僕がこの家の家事全般をやり、父との会話、連絡事項、兄とのドア越しの会話を受け持ってきた。だが最近は日中外へ出る機会が増え、休日もデートで潰れたり家にいないことが多くなった。そのため、仕方なく父と兄が話をしなければならない場合がでてきていた。単身赴任の多い父だが今はひと月ほど家に帰っている。家から会社へ行き,週末だけ父は家にいる。  父の話によれば、父がシーツやバスタオル

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          大人の恋愛小説・マダムたちの街Ⅰ-1

          第一章 その1 二人の女性との出会い  都会の空間にはめ込まれた巨大なビル郡。 そのビルの間を繋ぐ通路や階段の間に、思いがけない広場やちょっとしたベンチがある。  風も吹き込まない、適度に日当たりの良いそれらは絶好の休憩所だ。何人かが落ちあっては休む憩いの場でもある。  僕が一人の女性と出会ったのはそんな商業施設のビルの谷間、通路と通路を結ぶ広場の一角だった。  勤め人がひたすら前を向いて行きすぎる植栽の間のベンチだった。  まるでそこに何年も座っていたかのように女性は周

          大人の恋愛小説・マダムたちの街Ⅰ-1