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「勉強して貧困の連鎖を断ち切る」ってどういうこと?

無料塾の社会的な役割のひとつには、「経済格差が学力格差につながり、それがまた経済格差につながっていく」という貧困の連鎖を止めること、というのがあります。多くの無料塾はその意識を持って運営をしています。

先日、私が運営する無料塾では、みんなで「勉強する意味を考える」という授業を行いました。
私たちはなぜ勉強をするのか。親や先生は「勉強しなさい!」って言うけど、それはなんでなの? 子どもの頃にはみんな一度や二度は思ったはずのこの疑問。ボランティアスタッフさんにこの授業を仕切ってもらい、みんなで考えてみました。

結論を先に言うと、この答えは「人それぞれ」であって、子どもたちに対して今「あなたにはこういうふうに役立つから、勉強が必要なんです!」ということを言うことはできません。
私も大人になって、実際に社会の中で生きてみてから、「あっ、これ知っといてよかった」「あれをやっておいてよかった」と思うことはチラホラありますけど、それは誰しもに当てはまるものではありません。

でもだったら、なんで私たち無料塾は、子どもに勉強を教えて、それで貧困を乗り越えるというか、回避してほしいなどと大それたことを言っているのか。ちょっと考えてみました。あくまでも持論です。

まず、「勉強するということそのものに慣れること」「ちょっとつらいけど努力をして何かを乗り越えるという訓練をしておくこと」が、将来お金を稼ぐことに結びついていくからだということ。
「勉強はしんどいから、それよりもバイトをして早くから稼いだほうがいい」
もちろん、家計のためにやむを得ず、学校に行かずに働かなくてはいけない子もいます。でも、学校に行くという選択肢は環境的に絶対NGではないけれど、そんなふうに「勉強するんだったら……」と高校中退してバイトをしたり、高卒後は進学せずに働くということを考えたりという子が、無料塾に来る家庭の子どもには結構多いんですね。
でも、これって消極的な職業選択でしかないと私は思うのです。その仕事がやりたいから、早くから就職して頑張りたいみたいな思いがあればいいんですけど、そうではない。やりたいことなどをあまり考えずに、「今の年齢でできるバイトをしよう」というのがほとんどです。
こうなると、そこで実績を上げて待遇を上げてもらおうとか、もっとやりがいのあるプロジェクトに挑戦してみようとか、その仕事をどうやったらもっとよりよくできるようになるだろうか……みたいなことを考えるモチベーションも湧かず、「今の仕事を次の仕事のステップに」という感覚もなく、日々がなんとなく過ぎていくことになりがちです。
でも、そうなったときにでも、「これを勉強すればこういう仕事ができるかも」みたいに勉強慣れができていたら、違うかもしれません。それ以前に、こういう勉強をしたらこういうことができる、という情報や知識を得るだけの力がついていることもポイントでしょう。
そういう力がないと、今足元にある選択肢はどれだ、とすごく近いものしか見ることができず、夢を持つということがどんどんしづらくなっていきます。
ちょっと勉強する(勉強だけじゃなくて、何か自分が今できないけど努力したらできるようになる課題をこなす)だけで、違う世界が見えてくるかもしれないけれど、そういう結果が不確定な努力をすることに慣れていないから「しんど」となって、足元にしか目がいかなくなる。
中学生くらいまでに、勉強するという経験をしっかりやっておかないと、そんな状況に陥る可能性が高くなってしまうのではないかと思います。それが、貧困につながってしまうのではないかなと。
(こういうことがわかっていて、それでも勉強したくてもどうしようもない環境にいる子どももいます。そういう子は本当に、優先的に社会が手を差し伸べて行かなくてはなりません)

貧困の連鎖を断ち切るための学力、というのは、何もいい高校に行けとか、いい大学に行けとかいうことではないと思っています。
学習するための力そのものを、身につけること。これが最も大事なのかなと。
その力というのはただの暗記に頼る学習ではなくて、「自分で情報を集める」ことや「その情報・知識を必要なときに取り出して整理する」こと、また「〝これはなぜか〟〝どうしたらいいのか〟を考える」こと、「考えたことを表現する」ことなども含めたものとなります。
そして、2020年の大学入試ではこうした力も問われるものとなっていきます。なんで問われるかというと、これから絶対に必要なことだからです。

無料塾で貧困を食い止めようとするなら、テストの点を上げるだけじゃダメで、貧困に陥って困らないようなマインドを作っていくことが必要だなと思います。
また、ゴールはお金持ちになることではなく、生きられるだけのお金は最低限稼げるという前提のもと、自分がやりたいことを選び、実現できるようになること、だと思います。その結果、年収が300万円だったとしても、500万円を選べる道もあったけれど300万円のほうにやりがいを感じ、その中で幸せを感じながら生きることができるのであれば、それでよいのかなと。
「生きていくのに必死で自分のやりたいことなんて考える余裕がない」という状態ではなく、心に豊かさを保てる環境を、自分自身で作り出せるかどうか。そういう力を身につけていってもらいたいな、と私は願っています。

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