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inquireで書くにまつわる「システム図」ができました

インクワイアで働いていますって言う場を作れてませんでしたが、去年の夏からインクワイアで「システム思考」のラーニングプロジェクトをやっていました。プロジェクトが一区切りついたので、そこから見えてきたインクワイアの書くにまつわる知見をシステム図で紹介したいと思います。

システム思考とは

システム思考とは、ピーター・センゲが提唱する「学習する組織」をなす一つの要素です。複雑性を理解する思考法といわれ、不確実性の高い現実を観察し、主体的に関わろうとするしなやかさを育むとされます。戦略立案のスキルアップのために企業研修で受講する人たちもいますね。

なぜインクワイアでシステム思考をやっているか

インクワイアにとって2020年は、自分たちの思想を整理し、ミッションや組織構造を変え始めるような動きのあるタイミングでした。大事にしたい思想を抱えて働くために、個人や組織がどんな実践をできるといいかを話し、「学習する組織」がキーワードの一つにあがったのが2020年春。そうして、メンタルモデルとシステム思考を学ぶ場が作られました。

インクワイアには対話の文化があります。感情やもやもやを共有する習慣があり、人間の全体性を大切にしようとする姿勢を感じます。そうした感情やもやもやを整理・可視化して課題解決する過程を、システム思考は少し助けています。

個人の視点から組織を眺めるのに、システム思考を学ぶ場は有用なようです。対峙するシステムにどう介入できるだろう。これは、誰しもが日々向き合っている問いだと思います。しかし、自分もそのシステムの一部である状況において、一人で対峙するのは骨が折れるものです。場を通して"事実"が浮き彫りになり、システムに実際に関与している、もしくは、したいと意思表明する人々のネットワークが誕生したのはとても素敵な出来事でした。個人では到達しえなかった視座を得るという意味で、インクワイアメンバーのアントレプレナーシップを育む側面もありそうです。

設計・運営で考えていたこと

システム思考のプロジェクト設計を任せてもらったのは、私がインクワイアに入って1ヶ月後と間もない時期。当初設計で意識したのは、システム思考を身につける訓練の場でなく、システム思考を身につけたくなる動機付け。生きる上で役立つことを体感してもらいたいと考えました。

トップダウン型でなく、ボトムアップ型の学びの設計をしました。トップダウン型とは教本を体系的に学ぶような方法です。ボトムアップ型では、システム思考をやってみる個人の実践に4ヶ月にわたり伴走する方法を取りました。これは私にとっても初めての経験でしたが、インクワイアの一人ひとりの関心ごとや視点、思考のクセが浮き彫りになる貴重なプロジェクトになりました。

学びのステップ

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学習段階は、4ヶ月にわたり用意しました。プロジェクトの題材は、インクワイアの仕事における一人ひとりのもやもやです。プロジェクト初期は、もやもやの根源がどこにあるかも朧げな状態でしたが、対話や刺激物によるリフレーミングを重ね、明確な問題意識に変わっていく様子がありました。

印象的だったのは、システム図という具体的なアウトプットにもやもやを落とすときの難しさでした。システム思考は本質的な課題解決のために使われますが、課題設定が一番難しいんですよね。なにを書いたらいいかわからないという苦しさに、それは本人の中に答えがあると伝える苦しさがありました。参加した一人ひとりに本当に向き合いきれたのか、今でもふと頭に浮かびます。

書くにまつわるシステム図

システム思考で物事を観察するとき、相互の関連や関係性に着目します。動的に、そして全体性をもって捉えようとする思考の一部を可視化したものがシステム図です。ここでは、インクワイアのシステム思考プロジェクトで作られたシステム図をまとめました。

(1)どうやって自分は記事を書いているのか
(2)いい記事を書く人をどう育てるか
(3)記事を書く人の心理環境の改善について
(4)プロジェクトメンバーのタスクの煩わしさをどう最小化するか

(1)どうやって自分は記事を書いているのか by Oya Sachiyo

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「どうやって記事を書いているの」と聞かれた時にうまく伝えられないという問題意識から、記事を書く手順を具体化しました。様々な観点から文章を眺め、徐々に完成させていく過程がどうなっているのか気になりますよね。インクワイアの編集ライティング研究会では、記事を書く過程を引き続き探究していくそうです。

(2)いい記事を書く人をどう育てるか by Nishiyama Takeshi

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*システム図の読み方
青線:比例関係 赤線:反比例関係

記事含めた製作物の質について描かれたのは、フィードバック量との関係性。フィードバック量の累積に比例して製作物の質が上がるために、何が必要かを思考したようです。図のYサークルに閉じがちなフィードバックによる一連の出来事を、一番外側のOサークルに開くことで良い循環が生まれると、従来のフィードバックに加えて「課題の抽象化の精度」を上げる取り組みを始めています。

YMOとは

(3)記事を書く人の心理環境について by Mukai Haruka

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*システム図の読み方
青:探究領域 緑:実践領域
矢印:比例関係もしくは時系列 マイナス付き矢印:反比例関係

「記事の締め切りに間に合えないのはなぜか」
この問いを起点に、記事を書く人の心理環境における実践(書く)と探究(考える)の接続が描かれました。締め切り間近に急いで書く状況は、記事を書く多くの人に共通するのでしょう。システム思考プロジェクトでなされた対話では、原稿着手へのモチベーションにどう介入するか、もしくは原稿着手する別の方法を模索し合うような話が生まれました。書く人の環境をどうデザインするかは、プロジェクトメンバーにとっても共通のテーマです。

(4)プロジェクトメンバーのタスクの煩わしさをどう最小化するか by Inaba Shina

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*システム図の読み方
青線:比例関係 赤線:反比例関係

タスクへの煩わしさを最小限にするために「プロジェクトの要素が個人の億劫になるループに油を注いでいる」様子を描いたのは、プロジェクトエディター*の視点。案件において各人のコミュニケーションの"遅れ"が生じる背景や要素が浮き彫りにされました。どう相手に配慮して助け合うかを検討し、気持ちよく働けるようなよりよいプロジェクトを目指しています。

*プロジェクトエディターとは、プロジェクトの情報、知識、関係、言葉を編集して、プロジェクト進捗をリードする職能のことです。

システム思考プロジェクトで起きたこと

今回完成したシステム図には、現在進行形でブラッシュアップされているものがあります。問題提起した当事者だけでなく、一緒に考えたいと集まったメンバーと場所を変えてなされているのです。

また、インクワイアの生態系が部分的に浮き彫りになったように感じます。というのは、インクワイアの個人から見えている”世界”がシステム図として机上に並べられたからです。森があり、川が流れている。そんなインクワイアという場の様子は鳥の目の視点から見えていましたが、そこに生きる素敵な方々、虫や花や蜂の視点でその世界がどう見えているかを知ったのは私にとって初めてでした。

「システムとネットワークの違いはなんですか?」とプロジェクト期間に質問されました。

システム思考は、複雑系ネットワークの社会において、物事を前に進めようとする人たちが課題解決を図るための思考法スキルだと思います。ですからシステム図には、事象(ネットワーク)の中から切り取られた個人の文脈が現れています。ネットワークを適切に切り取れば、個人や組織が介入できるであろうシステムが見えてくるはずです。(ぜひ、上記に掲載したシステム図をそうした視点で見返してみてください。)

システム図には目的が伴います。ああ、この人はこのことに向き合いたいんだなと伝わってきます。

今回は、作られたシステム図の一部を紹介しました。掲載した、しなかったに関わらず、そしてうまく描けた、描けなかったに関わらず、そこには一人ひとりの貴重な姿勢が現れました。プロジェクトを終えてから課題にどう向き合うかは個人に任されますが、感じたことや表現されたことが組織の知見の土壌を肥やすことに期待しています。

一方で、反省も。システム思考を体系的に見渡せるような素材を用意していなかったので迷子にさせてしまったり、日々システム的に考えるクセをつけるような実践まではいけなかったり。次に活かします。

これからの展開

世の中をシステム的に捉えるには、表面的な出来事の背後を立体的に想像することになります。そのとき必要なのは、二つのマインドセットです。

・自分が、大きなシステムの一部である感覚
・自分が、自分という複雑なシステムの出現場所である感覚

こうしたマインドセットを持った、または持ちたい人と出会い、システム思考の探求と実践を続けていきたいと思っています。そうして共にこの世界に向き合えるならば、すごく幸せだなと。

インクワイアで次回をやれる日を楽しみにしています。

もっと深く知りたい方は、システム思考ってなに?をまとめたものがあるので是非お読みください。

システム思考って要はなに?なにが大事なの?

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