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犬と少女

元妻と犬と、大きな通りで信号待ちをしている間、私はしゃがんで犬の足の付け根をマッサージしていた。

老犬なので、筋力も衰えているし筋も固くなっているので、長い信号待ちの間など、犬の四肢を揉んであげることが多い。

今日は気がつくと、小一くらいの女の子がすぐ隣に立っていて、犬をじっと見ているので、私は「こんにちは」と声を掛けた。

コロナで休業になる前は、園児から小二までの子を対象に、毎週、運動教室の講師もしていたので、こんな私と言えども子どもにはあがらない。

女の子は「こんにちは」と返事をして「犬、触っていいですか」と聞いてきたので「どうぞどうぞ」と言った。

我が老プードルは、これまで何かに唸るということもなければ、昂って吠えかかるということもしたことがない。他の犬に噛みつかれたことはあっても、彼が噛むことは人にも犬にも一度もない。
先住猫にすれ違いざまに頭や尻を叩かれても、驚いた顔をして終わり、という犬なのだ。

だから私はその安全性に自信を持って「どうぞどうぞ」と答えた。

女の子は犬の背を優しく何度も撫でてくれた。

「犬が好きなの?」と聞くと「犬、大好きなんだけど一軒家じゃないから飼えないの」と答えた。

もちろん集合住宅でも犬を飼えるところはあるのだが、ご両親がきっとそのように言って諭すのだろう。
「イヌハ、イッケンヤジャナイト、カエナインダヨ」と。

それにしても、しっかりとした女の子だ。
礼儀正しく、モジモジし過ぎることもなく、初見の大人に気持ちを伝えられるって、スゴイことだ。

(しっかり者に見初められたな)と犬の人気を嬉しく思いながら、私がまだ犬の足を揉んでいることの説明をするつもりで、
「この子はもうおじいちゃんなんだ」と何気なく伝えた。

すると女の子は

「えっ!」

と言って慌てて犬の背中から手を引いた。

人間で言えば80歳を超えていようとも、犬というものは幼く可愛らしく見える。成犬と子犬の見分けさえつきにくい場合もある。

女の子は、老プードルをきっとまだ若いワンちゃんだと思っていたと思う。

実は昨日、久しぶりにトリミングをしてもらって、犬はいま、こんな感じなのだ。

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少女が若い犬だと勘違いしてしまっても無理はない。現実には、14歳くらいだとしても。(保護犬なので正確な年齢な不詳なのだ)

そしてトリミング前夜はこうだった。

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少女が犬と出会うのが一日早かったら、彼女は犬に触れたいとは思わなかったのではないかと思う。

「えっ!」と言って犬から手を離した少女は、信号が青に変わったことを潮に、私と元妻と犬に挨拶とお礼を告げて、信号を渡って行った。

犬を介しては、実に色々な出会いがあるものだが、今日の勇気ある幼き愛犬少女との邂逅は、嬉しかった。

老いの傾向が顕著になってきた犬が、若く見間違われたということも含めて、嬉しいことだと思った。




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