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翻訳家・松岡和子さん講演会@清泉女子大学へ。  そして、パワースポットと舞台美術家・朝倉摂さんのこと

「翻訳は、選択と断念でできている」

今日、清泉女子大学で行われた第14回演劇講座「松岡和子先生 講演会」に伺った。以前お見かけした時に、あまりに楽しそうにおしゃべりされる姿が印象的で、元気とやる気をもらえそうな気がして伺った。シェイクスピア全作を翻訳に取り組む松岡さん。もちろんシェイクスピアや海外脚本の話も聞きたかったのもある。

講座内容は、これまでの仕事の内容や、翻訳ということ。その中で出てきた言葉が「翻訳は、選択と断念でできている」。ひとつの英単語とってもいろんなニュアンスが含まれているけれど、どの日本語に当てはめるかというのは取捨選択。何かを選べば、何かは選べない。

to be or not to be・・・・・
「生か、死か、」福田恆存訳
「生きるか、死ぬか、」野島秀勝訳
「生きるべきか死ぬべきか、」河合祥一郎訳
「生きてとどまるか、消えてなくなるか、」松岡和子訳

『ハムレット』は明治以降40以上の翻訳本が出版されていると言われますが、どう訳すか。ああ、なにが問題だ?

印象的だったのは、そう松岡さんが現代の女性であること。松岡訳『ロミオとジュリエット』でジュリエットは「ロミオ様」ではなく「ロミオ」と呼ぶ。付き従う女ではなく、自分の意思でロミオについて行こうとする。

言葉ひとつで、ジュリエットは男の理想ではなく、一人の人間となる。

講座では、2月からの舞台『ヘンリー五世』(吉田鋼太郎さん演出、松坂桃李さん主演)の翻訳についても、秘話公開。物語内の関係性において○○役が現代日本の○○と重なって感じられたので、言葉をすべて○○弁に訳したのだとか!(なにがなんやらだと思いますが、上演で採用されるかもわからないので伏せ字!)。
舞台関連企画として松岡和子先生も楽しみにしておられる「彩の国シェイクスピア講座Vol.2『ヘンリー五世』徹底勉強会」が11月から始まるので、こちらも楽しみ!

1時間30分ほぼ立ちっぱなしで、終始笑顔で元気よく話されていました、松岡さん。ご活動の実績だけでなく、立ち居振る舞いひとつとっても明るいパワーがあります。だからなのか、松岡さん=パワースポットだそうで・・・・・納得。元気出るもん。私もそのパワーにつられて講座に来ちゃったし。

そしてまたそれを隣で少女のように楽しそうに聞く准教授の米谷郁子さんが輝いていました。時には「あれってこれですよね!」と話され、本当にお好きなんだなと。きっと400年前もあったはず。「シェイクスピアのあのシーンってね、こうだったと思うのよ〜!」と盛り上がった少女たちの光景が。

米谷先生、本講座を一般公開してくださりありがとうございます。

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この講座を聴講している間、わたしは大学生の時に学内で講演してくださった、舞台美術家の朝倉摂さんのことを何度も思い出した。朝倉さんも、なんていうかパワースポットみたいな人だった。こちらが導かれるというより、むしろ歩き回るパワースポットみたいな印象だった。

もう10年以上前、学生主体のGALA(舞台芸術祭みたいなの)の一企画で、朝倉さんに来ていただいた。当時80代半ばのご年齢だった。

ちょっと記憶があやふやなので、印象的な場面ばかり思い出してみる。

私は実行委員のひとりだったけど、朝倉さん講演会の担当ではなかった。でもなぜか講演会当日の打ち合わせ場所で朝倉さんを待っていた。現れた朝倉さんは、小さな体で目が爛々としていて、今にもはしゃぎそうなくらいニコニコしていた。「元気でかわいい方だなあ」という第一印象だった。

打ち合わせが終わってすぐ朝倉さんは「ちょっと近所を散歩してくるわ!知らない町を見てみたいの!」とさっさと建物を出て行ってしまった。開演10分ほど前、講演会を担当していた友人が、青い顔をして廊下を歩き回っていた。「どうしたの?」と聞いたら「朝倉さんが帰ってこない!もう始まるのに!」と、焦りすぎて表情にも出ないくらい慌てていた。マジで!?と周囲を探し回っても、いない。連絡も取れない。事故?時間勘違い!?どうしたの!?と冷や汗をかいて腰が抜けそうになる講演会直前、嬉しそうな顔で帰ってきた朝倉さんは「楽しかったー!」と笑顔で講演会会場に入っていった。好奇心にあふれた人生の大先輩の横顔を見て、楽しむ心の魅力に目が潰れそうだった。

「その人の人生が美しいということは、その人の24時間が美しいということです」と言ったのは、芥川比呂志さんだったかな。

講演会はとにかく朝倉さんが喋って笑って終わった。
いろんな舞台美術を写真で紹介してくれたけれど、あまりに朝倉さんが輝いていたから、舞台美術もどれも輝いていたみたいな気がする。

講演会が終わっても、元気に肩を弾ませながら帰って行った。
「パワースポットみたいな人だったなあ」というのが、最後の印象。

そっくり同じことを、登山家の田部井淳子さんにも感じたことがある。
目が輝いていて、いつも笑顔。節約して節約して節約して、山の話になると本当に楽しそうだった。偶然にお昼ご飯をご一緒することになった時も、ずーっと山の話ばかりを楽しそうにしていた。
田部井さんも、ちょうど1年前に亡くなってしまったなぁ。

ちなみにわたしは手相&耳相を鑑るんだけれど、数年前にわたしに鑑定方法を教えてくれた占い師さんが「占い師はね、パワースポットなの。会えばその人の人生に光が差す、そんな存在なの」というようなことを言っていた。

当時はピンと来ていなかったけれど、多くの方にお会いしているうちに「パワースポットみたいな人」と会うと自分の前へ踏み出す一歩が大きくなることに気づいた。インタビューというお仕事をしていると、本当に、パワーの塊みたいな、元気玉っていうかかめはめ波みたいな人に出会うことがある。人に影響を与えられる人は、やはり、すごい。

わたしの大好きな言葉で、ある宝塚トップスターの言葉がある。

「好きくらいじゃダメなの。会場を満杯にするには、魂を鷲掴みにするほど魅了しなきゃリピーターで来てくれない」

あと画商の方で「きれいな絵、気持ちいい絵、くらいじゃだめなんです。魂を鷲掴みに」と言った人もいたと。

そのような人に出会えることが楽しいから、人生24時間楽しくなるから、わたしはいろんな人に会いいろんな場所に出かけるライターという仕事をしているのかもしれない。

そして、いろんな人物に会える演劇に行くのかもしれないな。「この舞台をやるんだ!」と知った時から、ワクワクの動悸で苦しくなる。チケットを買った時、手にした時、観劇前夜、劇場に向かう道、入り口をくぐってチケットをもぎってもらい座席場所を確認して腰をおろした時。客席が暗くなり舞台が始まる瞬間。魂を鷲掴みにされてから、もうずっと演劇に魅了されているな。

『ヘンリー五世』も、楽しみです。

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