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出版しても死ぬ

某記事を寄稿しました。

Yamada, Y. (2019). Publish but perish regardless in Japan. Nature Human Behaviour, 3, 1035.

内容自体は書いてあるとおりなので特に噛み砕くこともないのですが,若手には頑張っててもシーキビな状況の人がけっこういるよと。成果の出方をすぐに努力や能力のせいにしようとする人がいるけれど,そもそも環境や状況がそれを許さないパターンもけっこうあるよと。まあそんな感じのことを言っております。ここではそこまで目新しいことは言ってません。というか文字数制限が厳しすぎていろいろ削ったせいで飛んでる箇所もあります。それとまあ,一部の状況だけにフォーカス当て過ぎとかいろいろ言えることはあると思いますが,まさにいろいろ言ってもらう契機にするために出したやつなので,ぜひいろんなところでこれをたたき台に議論してもらえればなあと思ってます。

一応この手の話はサイドワークとしてやってるんですけれど,けっこう蓄積されてきました。そもそもの目指すところは(今のところとりあえず)心理学の再現性問題の解決でして,そのためには,

・追試
・QRPsと事前登録制度
・統計
・ジャーナル(プレデタリ問題含む)
・被験者
・若手問題
・サイエンスコミュニケーション

の全部が少なくとも関係していて,それぞれ議論しないとねと考えています。前のエントリで書いたようにそれぞれが複雑に絡み合っています。そんで,これらの多くの点についてはけっこう前にこれ↓でツンツンっと触れています。今回寄稿したような若手問題の話も既に原型はこれ↓に入ってます。

山田祐樹 (2016). 認知心理学における再現可能性の認知心理学 心理学評論, 59(1), 15-29.

追試と事前登録の問題に関してはその後もけっこう触れることがありまして,まあ追試自体はこれまでけっこうやってきてます。投稿中の研究まで加えると10個くらいあるはずです。そういやある追試研究がついさっきin-principle acceptance (IPA) されまして,大変喜ばしく感じ入っておるところです。

他にも例えば

山田祐樹 (2018). 再現可能性問題をハックする ―是非に及ばぬ研究コミュニティからの包囲網― ヒューマンインタフェース学会誌, 20(1), 17-22.

では追試や事前登録を含めて科学的免疫システムという観点から議論してますし,

山田祐樹 (2018). こころの測り方「自由を棄てて透明な心理学を掴む」
心理学ワールド 83.

では一般向けに事前登録制度について紹介しております。その一方で,

Yamada, Y. (2018). How to crack pre-registration: Toward transparent and open science. Frontiers in Psychology, 9:1831.

Ikeda, A., Xu, H., Fuji, N., Zhu, S., & Yamada, Y. (in press). Questionable research practices following pre-registration. Japanese Psychological Review.

では事前登録制度の効果は認めつつも,その構造的欠陥についても事例を挙げつつ議論しています。個人的にはこの辺の話が一番面白いのですが,国際的にも議論がけっこう煮詰まってきた感があり,まあそれはそれでいいのですが,次の一手も俟たれます。個人的には分業について具体的にやれることがあるなあと思ってまして,いつか報告します。

統計についてはそこまでタッチできていないのですが,前のさらに別のエントリでも述べたように帰無仮説有意性検定についてはいくつか動いてます。

Trafimow, D., Amrhein, V., Areshenkoff, C. N., Barrera-Causil, C., Beh, E. J., Bilgiç, Y., Bono, R., Bradley, M. T., Briggs, W. M., Cepeda-Freyre, H. A., Chaigneau, S. E., Ciocca, D. R., Correa, J. C., Cousineau, D., de Boer, M. R., Dhar, S. S., Dolgov, I., Gómez-Benito, J., Grendar, M., Grice, J., Guerrero-Gimenez, M. E., Gutiérrez, A., Huedo-Medina, T. B., Jaffe, K., Janyan, A., Karimnezhad, A., Korner-Nievergelt, F., Kosugi, K., Lachmair, M., Ledesma, R., Limongi, R., Liuzza, M. T., Lombardo, R., Marks, M., Meinlschmidt, G., Nalborczyk, L., Nguyen, H. T., Ospina, R., Perezgonzalez, J. D., Pfister, R., Rahona, J. J., Rodríguez-Medina, D. A., Romão, X., Ruiz-Fernández, S., Suarez, I., Tegethoff, M., Tejo, M., van de Schoot, R., Vankov, I., Velasco-Forero, S., Wang, T., Yamada, Y., Zoppino, F. C. M., & Marmolejo-Ramos, F. (2018). Manipulating the alpha level cannot cure significance testing. Frontiers in Psychology, 9:699.

とかね。

ジャーナルについての議論は今まさにやってるとこで,今後また何か書物が出ると思いますのでそのときに詳しくはお知らせします。そういや

山田祐樹 (2019). 2018年度日本基礎心理学会第1回フォーラム 時代は変わる─再現可能性問題から基礎心理学のパラダイムシフトへ─ 基礎心理学研究, 37(2), 165-166.

これ↑のときに,私も編集委員をしている基礎心理学研究をまずは何とかできまいかねぇ・・・とか考えたのですが,結局まだ何もできてません。パーソナリティ研究さんはすごいなあ。あとJournal of VisionでRegistered Reportsできないかとかいう要望も出したりしました。まあいろいろ詳しくは今後。でかいヤマがいくつかありそうです。

被験者問題についてはだいぶ前からクラウドソーシングでの解決を考えてきました。これもいま査読中なので論文出たら報告しますが,まあそこまで画期的な変革には繋がらないかも・・・というのが正直な感想です。まだ国際的マルチラボで手分けしてやる方が今のところ有力だと見ています。そこにはいくつも理由がありますが,これもいつかまとまった議論を行いたい。

で,若手問題です。今回の寄稿はモロにこの問題に突っ込んでます。基礎心若手会ニキとして,(賛否あるでしょうけど...)オーラルセッションとかやったりしながら若手のご活動を見てきたのですが,とにかく地域,分野,ラボ,ジェンダーにおける格差の大きさに愕然とするばかりです。「まあ,そんなもんよね。仕方ない」と多くの人は言いますが,そんな言葉で片付けてよいレベルを超えた障害が発生しているように見えています。一応,

山田祐樹 (2018). 私のキャリアパス「ランダムが好きかもしれない」 日本心理学会若手の会ニューズレター 3(1), 3-6.

ではみんながんばれ的なことを言っていますが,そもそも既にみんな頑張っているのであって,そういう頑張り以外の問題を取り払っておかなければならないのは我々なのではないかと思っています。若手の人の声も常に聞き続けないといけないので,基礎心若手会ニキネキたちにTwitterでもSlackでも何でもいいので自由にコメントしてほしいし,ReproducibiliTeaってのを開催できるようにもしていますので,そこで議論したりしてもいいと思います。ちなみに研究者評価についての話もそのうち出ると思いますので,それも詳細はその時に。

でサイエンスコミュニケーションですね。実はこれが一番難しい・・・日心のサイエンスコミュニケーション研究会ニキとしてぼちぼち活動はしています。サイエンスカフェとか・・・あとまあ心理学ミュージアムに出したりとか学会でも発表したりとか・・・。このnote自体もその一環なのかもしれません。でも圧倒的に不足していると感じています。今のところシチズンサイエンスに活路があると思ってまして,日本学術会議若手アカデミーの方々と交流させてもろてます。あと別口で裏でいろいろ計画中ですので,何かやったらまた報告します。

て感じで「いつか報告します」のオンパレードで,締まりも統合性もエンターテイメント性も無いしタイトルからかけ離れて行きまくった内容でしたが,個人的にはここまでの活動をひとまず集めることができて御の字です。今後もサイドワークとしてぼちぼちゆっくりやっていこうと思います。

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