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成果を左右するこの春からのチームビルディングの設計

年明けからバタバタしていてほとんど書けていませんでしたが、ようやく落ち着いて来ました。書けていない間もいろいろ考えたり気付いたりしたことがあったので、ぼちぼち書いていきたいと思います。今回は、新年度に向けて新しいチーム作りの用意をしている方も多そうなことから、チームビルディングの話を書こうと思います。

昨年冬学期、「リーダーシップ開発:授業外への適用」という授業を始めたところ、予想以上に多くの学生から「ゼミにもっとチーム感を持たせたい」という趣旨の課題が持ち込まれました。新型コロナの影響も多分に受けているのでしょうが「あまり仲良くない(悪くもないけど)」「ゼミの活動にあまり熱心じゃない人がけっこういる」という感じなのですが、受講生たちは「せっかくだからもっと仲良くなりたいし、しっかり取り組む体験を一緒にしたい」と考えていました。

チームビルディングを設計する

「じゃあ、どうするか?」という話をみんなでしていく中で強く感じたのは、「チームビルディング、とりわけアイスブレイクをていねいにやると良いのでは」ということです。まずお互い打ち解けたり興味を持ったり、この人たちと何か一緒に作り上げるのはきっと楽しい(=エキサイティング)と感じたりするように持って行く、ということですね。

チームビルディングの効用はとても大きいです。まず、毎日(毎週)その場に来るのが楽しみになります。仕事にせよ勉強にせよ多少なりとも大変だったり苦痛だったりする部分がありますが、会うのが楽しみな仲間がいると気持ちの前向きさが増すというのは、21年度の受講生たちの感想を見ていてもよく分かりました。

次に仕事や学びに熱心になる効果も期待できます。仲良くなっただけだとチームというより友だちですが、ゴールや想いをある程度共有することがチームビルディングの中でできると、「やれたらいいな」とか「やらなきゃいけないから」くらいの動機しか持っていなかった人も、「ちょっとがんばっちゃおうかな」と思い始めたりします。とりわけ自分の強みや自分ならではの役割が見えて来ると、がぜんやる気が高まります。

では実際にチームビルディングはどう設計すると良いのか? いろいろなポイントがありますが、ここでは3つに絞って書いてみました。

遊び感覚を入れる

とりわけチームビルディングの最初は遊び感覚が大事だと考えています。チームのポテンシャルをフルに引き出すためには、肩に余計な力が入っていない方が良いからです。

遊び感覚とは例えば先日カリキュラム開発チームのキックオフをやった時の冒頭は「嘘つき自己紹介」というアクティビティから入りました。順番に自己紹介をするのですが、その内容に1つだけ嘘があって、どこが嘘なのかをみんなで当てます。今回だけでなくいろいろなところで使っていますが、ワイワイ盛り上がります。一方で気恥ずかしくなるほどはじける遊びではないところも良いのではないかと思います。

対話を多く取り入れる

次は対話を多く取り入れることです。先のカリキュラム開発チームキックオフではインタビューをやりました。「なぜこのプロジェクトに参加しようと思ったんですか?」「授業を自分が受けている時はどんなことに特に価値を感じましたか?」「どんなことが受講時に難しかったですか?」といったことをインタビューされる人とする人がいて、インタビュアーは答えにコメントを加えます。また残りの人たちはみんな聞いていて、チャットでコメントしていました。

このことを「対話を多く取り入れる」と書いたのには二つの意味があります。一つは同じ内容を一方的に語って他の人は黙って聞くより、インタビューのような対話にした方が、関係構築につながるのではないかということです。自己紹介を嘘つき自己紹介で行ったのも、遊び感覚を入れる以外に対話になるという意味がありました。

もう一つの意味は、対話があまりないタイプのアイスブレイクだけでなく対話がしっかり行われるものも入れた方が、お互いを知り、理解し、目標等を共有するのに役立つ、ということです。なお、飲み会などで先輩が後輩に一方的に語るのは「対話」とは言えません。あと飲み会に「遊び感覚」を感じられるのは主にパリピで、社交性のあまり高くない人はフリートークよりも枠組みのしっかりした対話の方が居心地良く取り組めます。

自己開示を促進する

最後は自己開示が行われるように設計することです。例えば前述の嘘つき自己紹介を行うに当たっては「ゲームがおもしろくなるコツは、嘘っぽい本当とホントっぽい嘘を組み合わせることです」とMCが話すようにしました。そうすると普段は人に話さない自分の「意外な」側面が少し出やすくなって、自己開示につながります。同じ目的から、インタビューの設問設定も大事です。

しかし、なぜ自己開示が大事なのか? 一つには、ありのままの姿に近い部分を共有されると信頼関係が高まることがありますが、もう一つの効果として「意外と共有されない『各自の想い』を共有しておくと、チームがその想いの実現に向かって一段高いレベルに上がる」ことがあるように思います。

よく学生がLDPの授業で「ここにはやる気にあふれた人が集まっている」と言うのですが、僕はそれは半分正しいけれども半分は間違っているのではないかと思っています。多くの人は、やる気をけっこう持っているけれどもそんなものを最初から見せるのはあまり大人げないと思って隠しているのではないかと。でももしそこで「いや、ちょっとでも思っていたらここでは言っちゃっていいんだよ」と示されると「できたらこういうことをやってみたい」と言い出せます。そしてみんながそう言い出すと「じゃあ、やってみようよ」と、普通より一段高いところを目指す空気が漂いはじめます。

その意味で、デモは大事です。例えばインタビューのデモをTAが教員に対して行うようにしておいて、そこで教員が想いを思い切り語ってしまいます。インタビュアーもノリノリで反応します。すると後に続くインタビューでもそういうシーンが展開されやすくなります。なお、教員からの方針プレゼンの代わりにここでインタビューに答える形で語ると「対話」になって、プレゼンするよりもしっかり受け止めてもらえる印象があります。またこれは教員と学生の距離を近づける効果もありそうです。

カリキュラム開発チームのキックオフでは、嘘つき自己紹介とインタビューに加えて最後に「異論・反論練習」というアクティビティをやりました。関係を壊すことを恐れるあまりに思っていることを言えないという状態にならないよう、異論・反論を言う練習で、その論題も自分たちの方向性を確認するようなものにしました。これでかなりしっかり話をできたのですが、トータル90分かかりました。でも、それによって達成できたことはとても多く、

・チームの一体感、活動することの楽しさが高まる
・仕事・勉強の目標が一段高いところにセットされる
・方向性の共有、理解の深化が起きる
・議論や対話の仕方が確立される
というように、とても大事なことの基盤ができるので、それだけの時間をかける価値は十分あるのではないかなと考えています。

(早稲田大学グローバルエデュケーションセンター 高橋俊之)



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