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ぬいぐるみのハリー

子ども達が犬との生活に憧れ、本当のペットのように可愛がっているぬいぐるみのハリー。

10年以上共に暮らし、旅先や田舎への帰省にも連れて行く本気ぶり。何度もほつれてはオペを施している。綿を詰め過ぎてゴリゴリのマッチョになったり、お腹ぽっこりになったり。あまりに残念な仕上がりの時は、母のプライドで再手術だってする。

犬種は分からないけれど、そっくりな犬がいたらどれだけ喜ぶだろうと思い、保護犬サイトをここ数年見るのが日課になっていた。思春期とギャングエイジ、プレ更年期で構成されている我が家の停滞した空気を打開し、自粛生活で萎えた家族を救いたい。ハリーはなかなか見つからなかった。今こそハリーが必要なのに。

緊急事態宣言やどこにも行けない夏休みを過ごし、新学期が始まったある日、仕事帰りのパパさんが「ハリーがいたぞ。」と小声で、興奮を必死に隠しながらささやいた。まさかハリーがペットショップにいるなんて。

翌日子ども達に内緒で見に行くと、ハリーはそこにいた。人懐っこい笑顔で尻尾をブンブン振って。緊急夫婦会議を電話で開き、1週間後家族に迎えることになった。コロナ鬱になりかけ生きる意味すら考え始めた高校生の長男にだけは先に伝えることに。ハリー効果は抜群で、久しぶりに笑顔が戻った。笑顔を通り越してにやつき始めた。あのままなら危なかったかもしれない。

「こいぬ、いたらいいなあ」という絵本のようなサプライズにしたかったので、必要なグッズを買っては隠し、届いては隠した。まるでクリスマス直前みたいな緊張感を楽しみ、1週間後の夜、パパさんと長男がこっそり連れて帰った。

リビングに突然現れたハリーに、固まる子どもや泣き出す子ども、いつか死んだらどうするの?と先々の心配をする子ども。それぞれのリアクションだったけれど、一瞬にしてモノクロからカラーへ我が家の空気が変わった。

ようこそ我が家へ。ちなみに名前はハリーにはならなかった。ハリーは唯一無二の存在だから、と。彼は今、イタズラされないよう高いところに避難している。

けんかが絶えない4人兄弟。でも気持ちはひとつ。「子犬を飼いたい!」「犬なんて無理」と言うお母さんに、4人の気持ちは届くのでしょうか? おかしきさんシリーズ第2弾、親と子の本音がリアルに描かれています。







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